怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

「夢見月の影」 (怖い話 奇妙な話)

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私は中村咲、28歳のOLです。東京の片隅で一人暮らしをしています。毎日忙しい仕事に追われ、家と会社を往復するだけの日々を送っていました。そんな私が体験した出来事は、今でも信じられないほど不思議で、時折思い出しては身震いするほどです。

それは去年の秋のことでした。会社の帰り道、いつものように電車に揺られていると、ふと気分転換がしたくなりました。駅を降りて、少し歩いたところにある小さな居酒屋に立ち寄ることにしました。店は「隠れ家」と名乗るだけあって、外観も内装もどこか懐かしく、落ち着いた雰囲気が漂っていました。

カウンター席に腰を下ろすと、店主の優しそうな男性が話しかけてきました。「いらっしゃいませ。初めてのお客様ですね。今日は何にしますか?」

「おまかせで何か美味しいお酒をください」と私は言いました。

しばらくして、店主は一杯のグラスを差し出しました。「こちらは特別なお酒、『夢見月』です。どうぞ、お楽しみください。」

そのお酒は、淡い月光のように輝いて見え、手に取るとほのかな香りが漂いました。私は一口飲むと、その美味しさに驚きました。まるで夢の中にいるかのような感覚でした。軽い酔いに包まれながら、私はゆっくりとお酒を楽しみました。

その夜、私はいつもより早く帰宅し、ベッドに入りました。眠りに落ちると、鮮やかな夢を見ました。見知らぬ街を歩き、見慣れない人々と話す夢でした。夢の中の風景はどこか現実の延長のようで、同時に全く別の世界のようでもありました。

翌朝目が覚めると、部屋の中に微妙な違和感を覚えました。いつもの部屋なのに、何かが少しだけ違う気がしたのです。棚の上に見覚えのない置物が一つ増えていました。それは小さな白い猫の置物で、どこかで見たことがあるような気がしましたが、思い出せませんでした。

「こんな置物、いつ買ったんだろう?」と不思議に思いながらも、仕事に向かうために家を出ました。会社に到着し、いつもの同僚たちと会話を交わしましたが、彼らの表情や言葉遣いが微妙に違うように感じました。

一日を終えて帰宅すると、さらに奇妙なことが起こりました。玄関のドアに、古びた鍵がかかっていました。その鍵は、私が子供の頃に使っていた家の鍵にそっくりでした。私は戸惑いながらも、その鍵でドアを開けてみると、中に入ると懐かしい香りが漂ってきました。

リビングに入ると、そこには見覚えのある写真が飾られていました。それは、私が幼い頃に家族と一緒に撮った写真でした。写真の中には、若い頃の両親と私が写っていましたが、何かが違っていました。私の隣には、見知らぬ少女が一緒に写っていたのです。

「誰…この子…?」私は写真をじっと見つめましたが、その少女のことを全く思い出せませんでした。

その夜、再び夢を見ました。今度は、あの居酒屋「隠れ家」にいました。店主が微笑みながら私に話しかけてきました。「夢見月をもう一杯、いかがですか?」

「これって、一体どういうことなんですか?」私は夢の中で問いかけました。

店主は静かに答えました。「夢見月は、過去と未来、そして異なる現実を繋ぐ橋です。あなたが見ているのは、別の可能性の世界です。」

「別の可能性…?」私は混乱しました。

店主は続けました。「その世界であなたが選んだ選択が、こちらの現実と微妙に違っているのです。」

私は夢の中でさらに問い詰めました。「じゃあ、私はどうすればいいんですか?この奇妙な世界から抜け出すには?」

店主は微笑みながら、「答えはあなた自身の中にあります。心の中で、真実の道を見つけるのです。」と言いました。

その言葉を聞いて目が覚めました。私は決心しました。この奇妙な出来事を解決するために、もう一度「隠れ家」に行ってみることにしました。店に着くと、店主は私を見るなり、「お待ちしていました」と言いました。

「私はどうすれば元の世界に戻れるのですか?」私は真剣に尋ねました。

店主は穏やかに答えました。「夢見月をもう一度飲むことで、あなたの心の中の真実を見つけることができます。恐れずに、自分の心に問いかけてください。」

私は再び夢見月を一口飲み、深呼吸をしました。そして、目を閉じて心の中で「元の世界に戻りたい」と強く念じました。そのあとは、いつも通り食事をして家に帰り、いつもと少し違う部屋のベットで眠りました。

目を開けると、私は自分の部屋にいました。いつもの机、いつもの棚、そして棚の上には見慣れた置物が並んでいました。リビングに行くと、そこには両親がいつものように過ごしていました。何も変わっていない、元の世界に戻ったのです。

その日から、私は普通の生活に戻りましたが、夢見月のことは忘れられませんでした。あの不思議な体験は、私にとって一生忘れられないものとなりました。そして、時折思い出すその夜の出来事が、私にとっての特別な冒険のように感じられました。

結局、私は夢見月のことを誰にも話しませんでした。それは、私だけの秘密として心の中にしまっておくことにしました。そして、あの居酒屋「隠れ家」には二度と足を運びませんでした。夢見月はもう一度飲む勇気がなかったからです。

それからも私は日々の生活を送りながら、時折感じるデジャヴに微笑みを浮かべました。別の世界で過ごしたあの不思議な夜が、私にとっての特別な思い出となったのです。

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