僕の名前は大輔、小学五年生だ。夏休みのある夜、友達の翔太と健一と一緒に近所の森で肝試しをすることになった。翔太はお調子者で、何事も楽しむタイプ。健一は逆に怖がりで引っ込み思案だ。僕はその間を取り持つ感じの性格だった。
夜9時、僕たちは家族にバレないように家を抜け出し、森の入口に集合した。懐中電灯を手に、僕たちは笑いながら森の奥へと進んだ。森の中は昼間とは全く違う、暗くて不気味な雰囲気だった。それでも翔太は「なんだ、全然怖くないじゃん!」と笑っていたが、健一はずっと緊張した表情を浮かべていた。
森の中を進んでいると、突然、眩しい光が僕たちの前に現れた。あまりの明るさに僕たちは一瞬立ち止まったが、その光の中から、まるでUFOのようなものが浮かび上がってきた。円盤型の物体から、頭と手足のある人型の存在が現れた。僕たちは驚愕し、その姿を宇宙人だと直感した。
「逃げろ!」翔太の叫び声とともに、僕たちは一斉に四方八方に逃げ出した。僕は何も考えずに全力で走り続け、気がついた時には一人で家の近くまで戻っていた。家に帰ると、恐怖と疲れでそのままベッドに倒れ込んだ。
次の日、学校に行くと健一が来ていなかった。先生は心配そうな表情で、「健一君が行方不明になっています。誰か、彼がどこにいるか知っている人はいませんか?」と尋ねた。しかし、僕は恐怖で声が出なかった。あの夜の出来事を話す勇気がなかったのだ。心の中では、健一が宇宙人にさらわれたのかもしれないと不安に思っていた。
それから健一は学校に来なくなった。僕たちは日に日に不安を募らせたが、時間が経つにつれて少しずつ健一の存在は薄れていった。半年が過ぎたある日、学校帰りに僕は勇気を出して再び森へと足を踏み入れた。もしかしたら、健一の手がかりが見つかるかもしれないと思ったのだ。
森の奥へ進むと、そこで信じられない光景を目にした。行方不明だった健一がそこに立っていたのだ。しかし、その姿はどこか機械的で、人間らしさが感じられなかった。僕は恐る恐る健一に近づいた。
「健一?」僕が声をかけると、彼は無表情でこちらを見た。
「君の名前は?どんな人物?家はどこ?好きな食べ物は?好きな飲み物は?」健一は次々と質問を投げかけてきた。僕は戸惑いながらも、次々と投げかけられる質問に一つ一つ答えていった。すると、健一は突然「ありがとう」とだけ言って、すごい勢いで走り去ってしまった。「待って!」と叫んだが、健一は振り返らなかった。
次の日、学校に行くと、なんと健一が教室にいた。先生は「健一君が見つかって良かった」と喜んでいた。しかし、僕は違和感を覚えた。健一は昨日僕が答えた情報をもとに振舞っているようだった。質問されなかったことについては、それなりに振舞っていたが、以前の健一とはどこか違っていた。細かいところが少しずれている気がしたのだ。
僕はその違和感に戸惑いながらも、何も言えなかった。今いる健一は本当に健一なのか?もしかして、あの宇宙人が彼に成りすましたのか?怖くて誰にも話すことができなかった。
後日談
あれから10年が経ち、僕は大人になった。小学校の同窓会が開かれることになり、久しぶりにみんなと会えるのを楽しみにしていた。同窓会の会場に入ると、懐かしい顔ぶれが揃っていた。そこで、健一とも再会した。
「大輔、久しぶりだな!」健一は昔と変わらない笑顔で話しかけてきた。しかし、僕はあの日以来、健一に対する違和感を拭い去ることができなかった。
僕たちはお互いの近況を話し合いながら、あの夜の話に触れることはなかった。しかし、同窓会が終わり、帰り道でふと健一が言った。「あの夜のこと、覚えてるか?」
僕は心臓が跳ね上がるのを感じた。「うん、覚えてるよ。忘れられない。」
健一はしばらくの間、何も言わなかったが、やがて静かに言った。「僕も、あの時のことをずっと考えていた。君が教えてくれた情報がなければ、僕はここにいなかったかもしれない。」
その言葉を聞いて、僕は全身に冷たいものが走った。やはり、今いる健一はあの時の健一とは違う存在なのかもしれない。僕はそれ以上何も言えなかった。
そして、その夜、僕は夢を見た。あの夜の森で、健一と再会する夢だ。健一は僕に「ありがとう」と言い、再び姿を消した。目が覚めた時、僕は涙を流していた。
健一が本当に宇宙人に成りすましているのか、それとも僕の勘違いなのか、真相は分からない。しかし、あの夜の出来事は今でも僕の心に深く刻まれている。僕たちはそれぞれの人生を歩んでいくが、これからもその違和感を胸に秘めながら生きていくのだろう。
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