怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

廃屋の恐怖 (怖い話 奇妙な話 不思議な話)

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大学の夏休み。友人の拓也、さやか、圭太、そして私、直樹の四人は、海辺の観光地への旅行を計画していた。5泊6日の予定で、海水浴や観光、バーベキューなどを楽しむつもりだった。初めの4日間は思い通りの楽しい日々だった。海の美しさに感動し、地元の美味しい料理を堪能し、夜は星空の下で語り合った。

旅行の5日目、夜も更けたころ、私たちはドライブに出かけることにした。車で森の中の道路を走り続けると、道が開けた場所に出た。車を止め、少し休憩がてら林道を歩くことにした。暗い森の中、懐中電灯の光が頼りだった。

数分歩いたところで、私たちは古びた大きな廃屋にたどり着いた。明らかに誰も住んでいない様子で、窓ガラスは割れ、扉は半ば外れかけていた。廃屋の前に立ちすくみ、何とも言えない不気味な雰囲気が漂っていた。

「何か怖いな、でもちょっと探検してみようぜ」と、圭太が提案した。興味本位と怖いもの見たさで、私たちは同意し、廃屋の中に足を踏み入れた。

中は真っ暗で、懐中電灯の光だけが頼りだった。埃が舞い、かび臭い匂いが鼻をついた。部屋の中を見て回ると、古い家具や日用品が散乱しており、まるで急に放棄されたかのようだった。

「ここ、誰かが住んでたんだね」とさやかがつぶやいた。その声が静寂を破り、私たちは一層緊張感を感じた。突然、奥の部屋から何かが動く音が聞こえた。

「今の聞こえた?」拓也が震えた声で言った。

「ネズミかな?」圭太が言ったが、その声にも不安が混じっていた。

「見に行こうか?」私は勇気を出して提案した。

奥の部屋に近づくと、突然、冷たい風が吹き抜けた。部屋のドアがギシギシと音を立てて開き、私たちは息を飲んだ。そこには何もいないはずなのに、まるで誰かの視線を感じた。さらに奥の壁には、不気味な落書きが描かれており、その中には異様に歪んだ顔の絵があった。

「ここ、もうやめよう。戻ろう」とさやかが震えた声で言った。

私たちは一斉に廃屋を出て、林道を急いで戻った。車にたどり着くと、一息つく暇もなくその場を離れた。民宿に戻った私たちは、何事もなかったかのように振る舞ったが、誰もが心の中で廃屋での恐怖を引きずっていた。

その夜、ベッドに入ったものの、廃屋での出来事が頭から離れなかった。あの落書きの顔、不気味な静寂、誰かの視線…全てが鮮明に蘇った。仲間たちも同じように感じていることは明らかだったが、誰もそのことを口にしなかった。

翌日、私たちは観光地での最後の日を迎えた。海辺で遊び、地元の名物料理を楽しんだが、心の奥底では廃屋での恐怖が影を落としていた。楽しいはずの旅行の最終日も、私たちはどこか上の空だった。

旅行が終わり、私たちは日常生活に戻ったが、廃屋での出来事は忘れることができなかった。夜眠れない日々が続き、ふとした瞬間に恐怖が蘇った。大学の授業中や友人と過ごす時間でも、あの廃屋のことが頭をよぎり、冷たい汗が流れた。

時が経ち、私たちは大学を卒業し、それぞれの道を歩み始めた。社会人になり、日常生活が忙しくなる中でも、あの廃屋での恐怖は心の奥底に残っていた。ただ、再会しても、あの夜のことが話題に上ることはなかった。皆でその恐怖を思い出したくなく、ふれてはいけない事のようだった。

年月が経ち、私たちも中年に差し掛かる頃、あの廃屋での体験は現実だったのか、それとも私たちの集団的な幻想だったのか分からなくなっていた。しかし、私が感じた恐怖だけは変わることなく、今でも鮮明に思い出される。

あの日の廃屋での体験は、私たちの青春の一部として、そして恐怖の記憶として、心に深く刻まれている。何年経っても、あの不気味な落書きの顔と誰かの視線を感じた瞬間の恐怖は忘れることができないのだ。

今でも夜遅く、一人でいる時には、あの廃屋で感じた冷たい風と恐ろしい視線が蘇り、震えが止まらなくなることがある。あの場所が何だったのか、そして何が私たちをあれほど怖がらせたのか、今となっては知る由もない。ただ一つ確かなことは、あの廃屋での体験が私たちの心に永遠に残り続けるということだ。

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