田中雄介は、倉庫での書類整理の副業を続けていた。これまでに不思議な話や特別な商品広告の書類に出会い、その内容に心を動かされたことが何度かあった。そんな彼が、また新たな書類に出会う日がやってきた。
ある晩、健一はいつものように大量の書類を仕分けていた。仕事に没頭していると、古びた封筒が目に留まった。封筒は黄色く変色し、まるで何十年も放置されていたかのように見えた。封筒には「重要書類」とだけ書かれていたが、その下には何者かが赤いペンで「開けるな」と書き足していた。
その警告に一瞬戸惑ったが、中身を見ないと整理ができないと言い訳しつつ、好奇心が勝り、健一は封筒を開けて中身を取り出した。中には数枚の古い手紙と、手書きのメモが入っていた。手紙には一つの事件について詳細に記されていた。
目次
封筒の中身
被害者の手紙:
手紙1
親愛なる友人へ、
これが最後の手紙になるかもしれない。私はある恐ろしい真実に気づいてしまった。私の家には何かがいる。それは夜中に現れ、私を見つめている。最初はただの気のせいだと思っていた。しかし、次第にその存在感が強まり、夜毎に私の部屋に近づいてくるのを感じる。
何度か振り返ってみたが、何も見えない。ただ、背筋に冷たい何かが走る。その存在は姿を見せず、ただそこにいることを知らせてくる。
君にこの手紙を書いている今も、その気配を感じる。どうか、もし私に何かあった時は、この手紙を警察に届けてほしい。これが私の最後の願いだ。
手紙2
親愛なる友人へ、
前回の手紙から数日が経ったが、状況は悪化している。夜中になると、その存在がますます近づいてくる。私の耳元で囁くような声が聞こえるようになった。その声は私の名前を呼んでいる。
何度も試みたが、その存在から逃れることはできない。昨夜、ついに私はその姿を見た。それは人の形をしていたが、顔がない。まるで黒い霧のような存在が私のベッドの横に立っていた。
恐怖に耐えきれず、私は家を出た。しかし、どこへ行ってもその存在は私を追いかけてくる。逃げ場はない。私は疲れ果て、もうこれ以上耐えることはできないかもしれない。
どうか、私の身に何か起きた時は、真実を知ってほしい。
健一は手紙を読み終え、背筋に冷たいものを感じた。手紙には恐怖と絶望が滲み出ており、まるでその場にいるかのような生々しい恐怖が伝わってきた。次に彼は手書きのメモに目を移した。
手書きのメモ
この手紙は、数年前に失踪した男性からのものだ。警察は調査を行ったが、何の手がかりも得られなかった。彼の家には異常な現象が数多く報告されており、多くの調査員が恐怖を感じて退散した。
この書類を見つけた者へ、慎重に扱うことを強く勧める。何かが、この手紙に関与しているかもしれない。どうか、この恐ろしい真実に深入りしないように。
健一はそのメモを読み、心の中で何かが警告を発しているのを感じた。しかし、好奇心が抑えきれず、彼は手紙の差出人について調べることに決めた。
調査の開始
健一は仕事を終えた後、手紙に書かれていた住所を訪れることにした。彼はその家がまだ存在するかどうかを確認するため、地図を片手に歩き始めた。住所の場所に到着すると、古びた一軒家がそこに立っていた。家は荒れ果てており、長い間誰も住んでいない様子だった。
彼は一歩一歩、慎重にその家に近づいた。玄関のドアは開いており、中に入ると、部屋の中は埃まみれで、家具も古びていた。まるで時間が止まったかのような光景だった。
彼は家の中を探索し始めた。手紙に書かれていた部屋に向かうと、そこにはベッドと机があり、机の上には数冊のノートが置かれていた。健一はそのノートを手に取り、読み始めた。
ノートには、手紙の差出人が経験した恐怖がさらに詳しく記されていた。毎晩、彼を襲う恐怖の存在。その存在が次第に力を増し、彼の生活を脅かしていく様子が描かれていた。最終的に、彼はその存在から逃れることができず、絶望の中で失踪したのだ。
健一はそのノートを読み進めるうちに、次第にその恐怖が現実のものとして迫ってくるのを感じた。彼は何かが背後にいるような気配を感じ、恐る恐る振り返った。しかし、そこには何もなかった。
真実との対峙
健一はノートを持ち帰り、家で再び読み返した。彼は手紙の差出人が経験した恐怖を追体験するような感覚に襲われ、次第にその存在が自分にも迫ってくるのを感じ始めた。
ある晩、彼は寝室でその存在を感じた。まるでノートの内容が現実になったかのように、耳元で囁く声が聞こえた。彼は恐怖に震えながらも、その声に耳を傾けた。
「田中雄介…逃げることはできない…」
その声は彼の名前を呼び、まるで手紙の差出人と同じ運命を辿るように警告していた。彼は必死にその声を振り払おうとしたが、恐怖が全身を包み込んで離れなかった。
翌朝、健一は決心した。このままでは自分も手紙の差出人と同じ運命を辿ることになる。
ノートを焼却処分することにした。炎がノートを包み込み、全てが灰となるまで見守った。恐怖の存在が消え去るのを感じた彼は、ようやく安堵のため息をついた。
その後、健一は書類整理の仕事を続けたが、再び同じような恐怖に遭遇することはなかった。彼はこれまでの経験を教訓に、自分の安全を最優先に考えるようになった。
健一の人生は再び平穏を取り戻し、彼は新たな発見や学びを期待しながら、日々の生活を送っていった。
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