怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

同じ運命の和食屋 (怖い話 奇妙な話 不思議な話)

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中堅の会社員、カズヒコはランチを大切にしていた。いつも、一人で好きなものを食べるのが楽しみで、会社近くの飲食店を巡っていた。今日は焼き魚、明日は唐揚げ、次の日はハンバーグといった具合に、毎日違う料理を堪能していた。幸いにも会社の周りには多くの飲食店があり、カズヒコのランチタイムは充実していた。

ある日、カズヒコは鯛の煮付けが食べたくなった。会社近くの和食屋や食堂を回ったが、その日はどこにも鯛の煮付けはなかった。タラやカレイの煮付けはあったが、鯛ではない。どうしても鯛の煮付けが食べたいカズヒコは、普段歩かない場所まで足を延ばした。すると、裏路地に古びたが綺麗な小さな和食屋を見つけた。お店の前には「本日の日替わり定食 鯛の煮付け」と書かれていた。ついに見つけたぞ、とカズヒコは迷わずそのお店に入った。

店内はこじんまりとしており、カウンター席に座るとコップに注がれた水を置きながら、大将が話しかけてきた。「うちは、日替わり定食しかやっていないけどいいかい?」カズヒコは迷わず「問題ないです。鯛の煮付けをください」と答えた。「はいよ!」と威勢のいい声で大将は答えた。

少し待つと鯛の煮付け定食がやってきた。カズヒコはニコニコしながら鯛の煮付けを食べ、その美味しさに笑顔がさらに広がった。「お水のお替りいるかい?」と大将が尋ねると、「お願いします。この鯛の煮付けとても美味しいです」と答えた。「良かった。腕には自信あるんだよ」と大将は自慢げに答えた。カズヒコは綺麗に定食を食べ終わり、とても満足して食堂を出た。

しばらくして、その食堂のことは忘れていた頃、カズヒコは焼きそばが食べたくなった。近くに焼きそば専門店があるので、そこに向かったが、お店の前で愕然とした。「店主、体調不良のためお休みします」と書かれていた。焼きそばが食べられる場所を回ったが、なかなか見つからなかった。そんな時、鯛の煮付けを食べた和食屋のことを思い出した。日替わり定食しかやっていないから、焼きそばはないだろうと思いつつ、だめもとで訪れると、「本日の日替わり定食 焼きそば定食」と書かれていた。やった、焼きそばがあった。お店の前で思わずガッツポーズをした。

お店に入ると、あの大将がいた。「いらっしゃい、今日は焼きそばだよ」「焼きそばください」とカズヒコは注文した。お店を見ると、客は入っているが満席にはなっていない。ビジネス街だから、お昼時には結構混む店が多いが、このお店は満席になるほどではないようだ。そんなことを考えていると、焼きそば定食がやってきた。カズヒコはニコニコしながら焼きそば定食を食べ始め、その美味しさに思わず声がこぼれた。「美味しい」、「ありがとう。いい顔して食べるねぇ」と大将が水をついでくれた。「いや、本当に美味しいです」とカズヒコは感謝した。

会社に戻ると、同僚の森谷が「今日はどこで食べたんだ?」と聞いてきたので、「路地裏の小さな和食屋」と答えた。「ふ~ん」と言って、詳しい場所を聞いてきた。
一通り聞き終わると森谷は去っていった。

その日から、カズヒコはその小さな和食屋に夢中になった。平日は毎日その和食屋に通う。今日はこれが食べたいと思うと必ずそのメニューが日替わり定食だった。唐揚げ、ハンバーグ、ラーメンなど、どの料理も美味しかった。

ある日、森谷に「おい、路地裏に小さな和食屋なんてなかったぞ」と言われた。森谷が詳しい場所の説明をしてきた。確かに森谷が説明する場所はあっていた。カズヒコはその日もその場所の和食屋で食事をしたが、「あれ、確かにそこだった気がするけど、だいぶ前だから忘れちゃったよ」ととぼけた。美味しいお店が混むのを避けるため、つい誤魔化してしまったのだ。

その日はロコモコが食べたくなった。さすがにあの和食屋にはないだろうと思ったが、和食屋に行ってみると「本日の日替わり定食 ロコモコ定食」と書かれていた。ロコモコがあった。カズヒコは迷わず入った。「今日はロコモコ定食だよ」と大将の声が聞こえた。「和食屋なのにロコモコ定食なんてやるんですね」とカズヒコが尋ねると、「うちは和食屋じゃないよ。私が作りたいものを作るんだよ」と大将は答えた。その日もとても美味しく、ロコモコ定食は最高だった。

その後もカズヒコは和食屋に通い続け、食べたいものが必ず日替わり定食で出てくることに驚きつつ楽しんでいた。うどん、ステーキ、グラタン、タコライスなど、これが食べたいなと思うと、必ずそれが日替わり定食に登場した。カズヒコのランチ生活は以前にも増してさらに輝いた。

そんなある日、会社からお達しが出た。来月末でオフィスを引っ越すらしい。カズヒコは和食屋に通えなくなることに愕然とした。その日も和食屋に行き、大将に水をついでもらうときに、大将から驚くべきことを伝えられた。「来月末でこのお店をたたむんだよ」。「えっ!?」と驚くカズヒコに、大将は申し訳なさそうに謝った。カズヒコはそんな大将に自分も来月末でオフィスが引っ越すから通えないことを伝えた。

通えなくなるタイミングまで一緒になるなんて、カズヒコは和食屋に不思議で何とも言えない運命を感じた。

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