私の住む街の少し外れには、不思議な川が流れていた。それは、決して深そうに見えない、穏やかな流れの川だった。しかし、誰もがその川を渡ることを諦めていた。
私が子供の頃から、この川は村人の間で「渡れない川」と呼ばれていた。何度も挑戦者が現れたという。泳ぎが得意な若者、冒険好きな大人、はたまた村の古老まで。だが、誰もその川を完全に渡り切ることはできなかったという。
私も何度か挑戦してみた。川岸から入り、水に足を浸けると、ひんやりとした感触が心地よかった。しかし、ある地点まで進むと、必ず視界が切り替わり、再び川岸の入り口に戻ってしまうのだ。
大人になってからも、その不思議な現象は変わらなかった。むしろ、好奇心は増すばかりだった。私は地図を広げ、川の上流や下流を探検してみたが、どこも同じだった。川は、まるで私をこの場所にとどめておくための壁のように思えた。
ある日、街中に「メタバース」という言葉が飛び交うようになった。現実世界を模倣した仮想空間で、人々が様々な体験をするという。私は、この「メタバース」が、あの渡れない川の問題を解決してくれるのではないかと期待した。
早速、最新のメタバース端末を購入し、仮想空間へと足を踏み入れた。そこには、現実世界の風景が驚くほど忠実に再現されていた。私は、すぐにあの川へと向かった。
仮想空間の川は、現実世界の川と全く同じだった。しかし、仮想空間では、自分のアバターを自由に操作できる。私は、川の中を泳いでみたり、空を飛んでみたりと、様々なことを試してみた。だが、やはり同じ地点で視界が切り替わってしまう。
「やはり、仮想空間でもダメか……」
そう思っていた矢先、メタバースのシステムがアップデートされたというニュースが入ってきた。新たなエリアが開放され、より広大な世界を探索できるようになったという。
再び仮想空間へログインし、川へと向かう。そして、いつも通り川の中を進んでいくと、いつもより少しだけ奥へ進むことができた。しかし、すぐに壁に阻まれてしまう。
何度も試行錯誤を繰り返すうちに、私はあることに気がついた。それは、川を渡るためには、単に物理的な障壁を乗り越えるだけではなく、何らかの「鍵」が必要なのではないか、ということだ。
私は、村の図書館で古い文献を調べたり、地元の古老に話を聞いたりした。そして、ある日、一つの手がかりを見つける。それは、この川は、単なる自然の川ではなく、古代の人々が作った人工的なものだという説だった。そして、その川には、特別な力が宿っているという。
その情報をもとに、私は再び仮想空間へと足を踏み入れた。そして、川の中に隠された「鍵」を探し始めた。
長い探索の末、私はついにその「鍵」を見つける。それは、川底に沈んだ古い石板だった。石板には、古代文字が刻まれていた。私は、その文字を解読しようと試みた。
そして、ある日、私はその文字の意味を理解した。それは、この川は、単なる場所ではなく、ある種の試練の場であるということだった。そして、この川を渡るためには、心の壁を乗り越えなければならない。
その言葉の意味を理解したとき、私は再び川へと向かった。そして、深い呼吸をして、心の準備を整えた。そして、川の中へと足を踏み入れる。
いつもと同じように、ある地点まで進むと視界が切り替わりそうになった。しかし、今回は違った。私は、心の壁を乗り越えようとする強い意志を感じていた。
そして、視界が切り替わる寸前、私は一歩踏み出した。すると、視界がクリアになり、私は川を渡りきることができた。
川を渡った先は、緑豊かな森が広がっていた。私は、その森を深々と歩いていく。そして、しばらく歩くと、視界が開け、広大な海が広がっていた。
私は、浜辺に座り、波の音を聞きながら、長い旅を終えた安堵感を感じた。
この経験を通して、私は自分自身について多くのことを学んだ。それは、困難を乗り越えるためには、物理的な力だけでなく、心の力も必要だという事。そして、どんな壁も、乗り越えることができるという希望。
それからというもの、私は、あの渡れない川を、もはや恐怖の対象ではなく、成長の場として捉えるようになった。そして、これからも、様々な困難に立ち向かい、自分自身を成長させていきたいと思っている。
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