怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

古川弁当 (怖い話 奇妙な話 不思議な話)

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主人公の田中一郎は、中年のサラリーマン。毎日、朝から晩まで働き詰めで、仕事の合間に楽しむことと言えば、昼食だけだった。最近、一郎は会社近くの弁当屋で昼食を買うようになった。この弁当屋がどうにも不思議なのである。

その弁当屋は「古川弁当」という看板を掲げている。小さな木造の店で、見た目は古びているが、どこか温かみがあった。店の奥から漂うおかずの香りが、通りがかる人々を引き寄せる。しかし、何よりも奇妙だったのは、その弁当屋の店主である古川さんだった。

古川さんはいつも店の奥にいる。年の頃は七十を過ぎているだろうか、白髪の混じった髪を結び、着物姿で店を切り盛りしている。彼女の微笑みは穏やかで、どこか懐かしい感じがする。一郎は毎日、彼女の弁当を買い、彼女の微笑みに癒されていた。

ある日、一郎はふと気づいた。古川弁当のメニューは古川弁当のひとつだけ。しかし、古川弁当で買う弁当は、毎回中身が少しずつ違うのだ。特別注文をするわけでもないのに、いつも自分が食べたいものが入っている。例えば、疲れている日にはスタミナ弁当、さっぱりしたい日には和風の野菜中心の弁当が出てくるのだ。一郎は不思議に思いながらも、その偶然に感謝していた。

しかし、一郎が本当に驚いたのは、ある特別な出来事がきっかけだった。

その日は雨が降っていた。一郎は傘をさし、弁当を買いに古川弁当へ向かった。店に入ると、店内は静かで、古川さんが一人で立っていた。一郎が「いつもの弁当をお願いします」と言うと、古川さんはにっこり微笑んで「はい、少し待っていてくださいね」と答えた。

待っている間、一郎は店内を見回した。壁には古びた写真が飾られており、その中には若い頃の古川さんと、彼女の家族と思われる人々が写っていた。店内の雰囲気はどこか懐かしく、一郎はしばらくその写真に見入っていた。

すると、古川さんが弁当を持ってきて「お待たせしました。今日は特別な弁当です」と言った。一郎は驚きながらも、受け取った弁当を開けてみた。中には、一郎が子供の頃に母親が作ってくれたお弁当とそっくりな内容が入っていたのだ。おにぎり、卵焼き、唐揚げ、そして特製のポテトサラダ。すべてが一郎の記憶に刻まれた味だった。

一郎は驚きと感動で言葉を失った。「どうしてこれを…」と尋ねると、古川さんは静かに答えた。「お客様の心が求めるものをお届けするのが、私たちの務めですから。」

それから数日後、一郎はどうしても古川さんにお礼を言いたくて、再び古川弁当を訪れた。しかし、店の前に着くと、そこには閉店の張り紙が貼られていた。「古川弁当は長年のご愛顧に感謝し、本日をもって閉店いたします」と書かれていた。一郎は信じられない思いで、その場に立ち尽くした。

その後、一郎は古川弁当の閉店について同僚たちに話してみたが、誰もそんな店を知らなかったという。インターネットで検索しても、古川弁当の情報は一切出てこない。まるで最初から存在しなかったかのように。

一郎は、あの弁当屋での出来事が夢だったのかもしれないと思い始めた。しかし、確かに彼の心には、古川さんの笑顔と、あの懐かしい弁当の味が刻まれていた。

ある日、一郎は仕事の帰りにふと、古川弁当のあった場所を再び訪れてみた。そこには新しい建物が建っており、弁当屋の面影は一切残っていなかった。無性に寂しくなった一郎は、近くの公園に足を運び、ベンチに腰を下ろした。

ふと、ポケットから取り出したのは、古川弁当で最後に買った弁当の包み紙だった。一郎はそれを開いてみた。そこには、古川さんの手書きのメッセージが残されていた。「あなたが幸せでありますように。心からお祈りしています。」一郎はそのメッセージを見て、涙が溢れてきた。

それから数年が過ぎ、一郎は仕事のストレスから解放され、新しい職場で再出発を果たしていた。忙しい日々の中でも、時折古川弁当のことを思い出し、その温かさを胸に抱き続けていた。

そしてある日、一郎は出張先で偶然、同じような弁当屋を見つけた。「懐かしの味」と書かれた看板が目に入り、ふらりと立ち寄った。店主は若い女性で、笑顔がどこか古川さんに似ていた。

一郎が弁当を注文すると、女性は「はい、お待ちくださいね」と言い、手際よく弁当を作り始めた。弁当を受け取った一郎が包みを開けると、そこにはまたしても、彼の記憶に残る母の弁当が再現されていた。

驚きながらも感謝の気持ちを伝えると、女性はにっこりと微笑んで「お客様の心に寄り添うのが、私たちの務めですから」と答えた。その瞬間、一郎は古川さんの温かさが、この若い店主にも引き継がれていることを感じた。

一郎は弁当を食べながら、自分の人生が少しずつ変わっていくのを感じた。古川弁当での出来事が、彼の心に新たな希望と癒しをもたらしていたのだ。そして、その温かさは、彼を支え続ける力となっていた。

一郎は、その後も旅先で見つけた弁当屋を訪れるたびに、心の中で古川さんに感謝の気持ちを伝え続けた。彼の人生は、古川弁当の不思議な体験によって、より豊かで温かいものへと変わっていった。

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