言葉を取り戻す自動販売機　（怖い話　奇妙な話　不思議な話）

主人公は、かつて小説家として活躍していた30代の女性。彼女は多くのベストセラーを生み出し、文壇でも高く評価されていたが、数年前からスランプに陥り、まったく新作が書けなくなってしまっていた。焦りとプレッシャーに押しつぶされそうになり、彼女は次第に執筆からも遠ざかり、言葉を紡ぐこと自体が恐ろしく感じられるようになっていた。

そんなある日、彼女は気分転換のために、街の片隅にある静かな公園を訪れた。その公園は、彼女がまだ作家としての道を歩み始めたころに、よくアイデアを練るために訪れていた場所だった。しかし、最近ではその公園も訪れることがなくなっていた。

公園の中を歩いていると、古びた自動販売機が目に入った。それは、公園の片隅にひっそりと置かれており、どこか懐かしいような、不思議な魅力を放っていた。自動販売機のディスプレイには、「言葉を取り戻すドリンク」と書かれていた。

彼女は、そのメッセージに強く心を引かれた。言葉を失った自分にとって、そのドリンクはまるで救いの手のように思えた。彼女は自動販売機に近づき、商品を眺めてみた。「創作意欲が湧くティー」「流れるような言葉のジュース」「インスピレーションを与えるソーダ」など、かつての自分を取り戻すためのような商品が並んでいた。

彼女は「流れるような言葉のジュース」を購入し、公園のベンチに座ってボトルを開けた。香りはどこか懐かしく、安心感を与えるものだった。彼女はそのジュースを一口飲んでみた。

すると、彼女の頭の中に、次々と言葉が浮かんでくる感覚が広がった。かつて感じたことのないほど、アイデアが鮮やかに溢れ出し、物語の断片が次々と形を成していった。まるで、言葉が彼女の中で再び息を吹き返し、自由に踊り始めたかのようだった。

彼女はその場でメモ帳を取り出し、書き留めることも忘れるほどに夢中で言葉を紡ぎ始めた。次々と浮かぶアイデアに従って、物語の展開が鮮やかに描かれていった。久しぶりに感じる創作の喜びと、言葉が生まれる瞬間の高揚感に、彼女の心は満たされていった。

その後、彼女は新作を書き上げ、再び小説家としての道を歩み始めた。その作品は大いに評価され、彼女の復活を象徴するものとなった。スランプに悩んでいた時期が嘘のように、彼女は再び言葉を自由に操る力を取り戻していた。

あの自動販売機が現れたのは、彼女にとって必要な時期だったのだろうと、彼女は思った。しかし、その後再び公園を訪れても、あの自動販売機の姿は消えていた。まるで、彼女に言葉を取り戻す役目を果たした後、静かに姿を消したかのようだった。

それでも、彼女の心の中には、あの瞬間に感じた言葉の力と創作の喜びがしっかりと刻まれていた。これからも、言葉を紡ぐことの楽しさを忘れずに、彼女は作家としての道を進み続けるのだった。あの不思議な自動販売機は、彼女にとって永遠に忘れられない存在となった。

ほんとうにあった怖い話「年上の彼女」

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