怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

記憶を封じ込める自動販売機 (怖い話 奇妙な話 不思議な話)

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主人公は30代の男性で、過去のある出来事が原因で心に深い傷を負っていた。その出来事は、彼にとって忘れたいと思いつつも、常に心の中で重くのしかかり、前に進むことを妨げていた。友人たちからの助けも無力で、彼はただ日々をなんとかやり過ごしていた。

そんなある日、仕事帰りに雨が降り出し、彼は急いで近くのアーケード街へと駆け込んだ。その街は普段あまり訪れない場所で、どこか懐かしさを感じさせる古びた商店街だった。

彼が雨宿りをしながらふと歩いていると、アーケードの端に一台の自動販売機が置かれているのが目に入った。その自動販売機は、見るからに古く、錆びついた外観が時代を感じさせたが、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。

興味を引かれて近づいてみると、自動販売機のディスプレイには、「記憶を封じ込めるボトル」という言葉が表示されていた。商品名は、「悲しみを消すエリクサー」「苦い思い出を忘れるティー」「心の傷を癒すウォーター」など、まるで彼の心を見透かしているかのようなラインナップだった。

彼はしばらくその前で立ち止まり、迷いながらも「悲しみを消すエリクサー」を購入することにした。彼の心の中には、ずっと抱えてきた重荷を軽くしたいという切実な思いがあったのだ。

自宅に帰り、彼は静かな部屋でエリクサーのボトルを開け、一口飲んでみた。飲んだ瞬間、彼の頭の中に過去の悲しみの記憶が鮮明に蘇ってきたが、それと同時に、まるでその記憶が遠ざかっていくような感覚が広がった。

彼の心に重くのしかかっていた感情が、少しずつ霧のように薄れていくのを感じた。過去の記憶はまだそこにあったが、それに対する痛みや悲しみは次第に和らいでいき、まるでその記憶が封じ込められたかのようだった。

その夜、彼は久しぶりに穏やかな眠りにつくことができた。翌朝目覚めると、心の中に広がっていた重苦しい感覚が消え、代わりに心地よい軽さが残っていた。

彼はその後、何度かあのアーケード街を訪れてみたが、あの自動販売機はもう見つからなかった。それでも、彼の心には確かに変化が起こっていた。過去の出来事は消え去ることはなかったが、それに対する痛みや苦しみは和らぎ、彼は再び前を向いて生きる力を取り戻した。

あの「記憶を封じ込めるボトル」は彼にとってただの幻想だったのかもしれない。それでも、彼はあの不思議な自動販売機との出会いが、過去に縛られていた自分を解放し、新たな一歩を踏み出すきっかけを与えてくれたのだと感じていた。

これからの人生を、もう一度前向きに生きていこうと決意した彼は、過去に別れを告げ、新たな未来へと歩み出していくのだった。

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