思い出を封じ込める自動販売機　（怖い話　奇妙な話　不思議な話）

主人公は50代の男性で、最近、かつての友人との再会をきっかけに、過去の苦い思い出に悩まされるようになっていた。彼は若いころ、親しい友人と大きな誤解から決別してしまった。その友人とはそれ以来会うことはなかったが、数十年ぶりに偶然街で再会したのだ。

その再会は、当時の感情や後悔を一気に蘇らせた。過去の自分が犯した失敗や、言いそびれた言葉が彼の心を締めつけ、夜も満足に眠れない日が続いた。何とか気持ちを整理しようと、彼は深夜に街を歩いてみることにした。

街の外れにある静かな通りを歩いていると、古びた自動販売機が目に留まった。街灯の薄明かりの中で、その自動販売機だけが不思議な存在感を放っていた。ディスプレイには、「思い出を封じ込めるドリンク」と書かれていた。

興味を引かれた彼は近づいて、商品リストを眺めた。「忘れたい記憶を封じるソーダ」「過去の後悔を癒すティー」「未練を閉じ込めるコーヒー」といった、過去にまつわるものが並んでいた。彼は、「忘れたい記憶を封じるソーダ」を選び、静かにボタンを押した。

手に取ったソーダのボトルは、シンプルながらもどこか温かみを感じさせるデザインだった。彼はその場でキャップを開け、一口飲んだ。すると、彼の頭の中に鮮明だった過去の記憶が次第に薄れ始めた。

彼は、決別してしまった友人との辛い記憶が、まるで霧が晴れるように和らいでいくのを感じた。記憶そのものが消えるわけではなく、重くのしかかっていた感情が軽くなり、心の中でその出来事を整理することができるようになったのだ。

彼は静かに目を閉じ、心の中で友人に対して「もう一度、ちゃんと話し合いたかった」という想いを抱きながら、少しずつ心が解きほぐされていくのを感じた。そして、その再会をきっかけに、過去に縛られていた自分を解放することができたと気づいた。

次の日、彼は友人に手紙を書き、もう一度会って話をしようと提案した。彼は、あの自動販売機での体験がなければ、過去の思い出を正面から受け止めることができなかっただろうと感じていた。

彼が再びあの通りを訪れると、自動販売機はもうそこにはなかった。まるで、彼に必要な瞬間だけ現れ、その役割を果たしたかのように。彼は心の中で自動販売機に感謝しながら、過去と向き合い、前に進む勇気を手に入れたことを喜んだ。

彼にとって、あの「思い出を封じ込めるソーダ」はただの飲み物ではなく、過去の重荷から解放されるための一歩だった。そして、彼はこれからも、新たな思い出を積み重ねながら、穏やかな人生を歩んでいく決意を新たにしたのだった。

ほんとうにあった怖い話「年上の彼女」

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