これは、私が登山を趣味にしていた頃、友人たちと一緒に訪れた山での出来事です。その山は標高が高く、頂上からは素晴らしい景色が望めることで知られていました。しかし、その一方で、過去に遭難事故が多発していることでも有名で、地元の人々からは「気をつけろ」と忠告される山でもありました。
私たちは、その山の登山ルートの一つに挑戦することにしました。ルートはやや険しいものの、整備された道が続いており、無事に山頂に到達できるだろうと楽観的に考えていました。その日は天候も良く、青空が広がり、登山には絶好の日和でした。
早朝に出発し、順調に高度を上げていきました。山道はやや険しい箇所もありましたが、山頂を目指す楽しさがそれを上回り、みんなで笑いながら進んでいました。途中、見晴らしの良い場所で休憩を取り、自然の美しさに感動しながら再び登山を続けました。
ところが、標高がさらに上がるにつれて、天候が急変しました。青空が突如として灰色の雲に覆われ、風が強く吹き始めました。山の天候は変わりやすいとは聞いていましたが、ここまで急激に変わるとは予想していませんでした。私たちは少し不安を感じながらも、頂上まではあと少しだからと進むことにしました。
やがて霧が立ち込め始め、視界がどんどん悪化していきました。霧はまるで生き物のように私たちを取り囲み、周囲が見えなくなってしまいました。山道も次第に険しくなり、岩場が多くなってきました。足元が滑りやすくなり、緊張感が増していきました。
その時、不意に友人の一人が「道が分からなくなった」と言いました。霧のせいで視界が悪くなり、進むべき方向が見えなくなってしまったのです。私たちは立ち止まり、地図やコンパスを取り出して確認しましたが、霧の中ではどの道が正しいのか確信が持てませんでした。さらに、山中の静寂が不気味に感じられ、どこかに迷い込んでしまったかのような恐怖が広がりました。
私たちは一度引き返すことを考えましたが、その時、不思議なことが起こりました。遠くから「カーン…カーン…」と何かを叩くような音が聞こえてきたのです。それはまるで金属が岩に当たる音のようで、誰かが近くにいるかのように感じました。私たちはその音を頼りに進むことにしました。
しかし、音が近づくにつれ、それが異常であることに気づきました。音は一定のリズムで響き、まるで私たちを導いているかのように感じられました。そして、音が完全に近くまで来た時、突然霧の中から古びた鳥居が現れました。山道の真ん中にぽつんと立つその鳥居は、苔むしていて、まるで長い間誰にも知られずに存在していたかのようでした。
「こんな場所に鳥居があるなんて…」と誰かが呟きました。鳥居の向こうには何も見えませんが、その先に何かがあるかのような不気味な気配を感じました。私たちは不安になり、その場から離れようとしましたが、なぜか足がすくんで動けませんでした。
その時、再び「カーン…」という音が響きました。音の出どころを探そうと振り返ると、霧の中にぼんやりとした人影が見えました。まるで誰かが私たちを見つめているようでした。驚いて全員がその影を見つめましたが、次の瞬間、影は霧の中に消えてしまいました。
「これはヤバい」と全員が一斉に逃げるようにその場を離れました。足元が滑りやすい岩場を必死に下り、来た道を戻ることにしました。霧が濃くて視界が悪い中、必死で進み続け、ようやく霧が晴れた時には、安全な場所まで戻っていました。息を切らしながら、全員が何とか無事だったことに安堵しました。
その後、地元の人にあの鳥居について聞いてみましたが、誰もその場所に鳥居があることを知りませんでした。さらに調べてみると、あの山にはかつて信仰の対象として使われていたが、今では忘れ去られた「禁足地」が存在するという噂がありました。
私たちが見た鳥居がその禁足地の入り口だったのか、あの音が何を意味していたのかは今でも分かりません。ただ、あの山には何か得体の知れない力が存在していたとしか思えません。今ではその山に再び登ることはありませんが、あの時の恐怖と不安は今でも忘れることができない記憶として残っています。
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