私は30代のサラリーマンで、普段はデスクワークに追われる毎日を送っています。仕事のストレスを発散するため、休日には近所にある小さな山に散歩に行くのが日課です。家から徒歩で30分ほどの距離にあり、軽いハイキング程度の山で、登山道も整備されています。山頂からは街全体が見渡せ、自然の中でのんびりと景色を眺める時間が私にとっての至福のひとときです。
その日も、いつものようにスーパーでお弁当と飲み物を購入し、山へ向かいました。天気も良く、気温も心地よい程度で、散歩には絶好の日でした。登山道の入口に着くと、見慣れた景色が広がり、木々が優しく揺れる音を聞きながら、気分良く登り始めました。
しかし、その日はいつもと少し違いました。山道を歩いていると、時折、見慣れたはずの道が全く知らない場所に見えることがあったのです。何度も通っているはずのルートなのに、木々の配置や道の形が微妙に違うように感じ、不安が胸に広がりました。歩みを止めて周囲を見回すと、再びいつもの見慣れた道に戻っていることに気づき、少しほっとしました。
「気のせいだろう」と自分に言い聞かせ、再び歩き始めましたが、またしばらくすると、またもや見覚えのない風景が広がりました。進んでいるうちに、道がねじれるように歪んで見え、次の瞬間にはいつもの道に戻る。そんな奇妙な感覚が繰り返され、どこかに迷い込んでしまったかのような不安が膨らんでいきました。
それでも「山頂まではもう少しだ」と自分に言い聞かせ、歩き続けました。ようやく山頂にたどり着くと、いつもと同じベンチが目に入りました。安心して腰を下ろし、買ってきたお弁当を広げ、ふと周囲を見渡しました。
しかし、その瞬間、心臓が止まるかと思うほど驚きました。いつも見慣れた街並みや遠くに広がる山々が、全く違う景色に変わっていたのです。そこに広がっていたのは、まるで別世界のような風景でした。見たこともない山々が連なり、その間には大きな湖が静かに輝いていました。その湖は、鏡のように青く澄んでおり、周囲の自然がそのまま映り込んでいました。
「ここはどこなんだ?」と自問しつつも、その美しい景色に心を奪われ、私はしばらく呆然と眺めていました。あまりにも不思議な光景に思考が停止し、恐怖や不安よりも、ただその美しさに見入ってしまったのです。お弁当を手に取り、そのまま食べ始めました。不思議なことに、いつも食べている普通のお弁当が、その日だけは格別に美味しく感じられました。
お弁当を食べ終える頃、ふと現実に引き戻されました。「ここは本当にどこなんだ?」という強い不安が押し寄せ、急に足がすくみました。見知らぬ景色に囲まれていることに気づくと、一刻も早くその場を離れたい衝動に駆られ、来た道を急いで引き返すことにしました。
山道を下りながら、次第に心が落ち着いてきたのは、道が再びいつもの見慣れたルートに戻っていたからかもしれません。帰り道では、奇妙な違和感も消え、木々や道の形がしっかりと私の記憶と一致していました。無事にふもとに戻り、見慣れた街並みが広がっているのを見て、ようやく心底ほっとしました。
「今の体験は一体何だったのか?」と考えながら帰路につきましたが、どうにも答えは出ません。ただ、あの不思議な景色を思い返すと、恐怖よりも、美しさに感動した気持ちが強く残っていました。
その後も、その山には定期的に登っていますが、あの異世界のような山頂には二度と遭遇していません。いつも、恐る恐る山を登りながら、「もしかしたら、またあの場所にたどり着けるのではないか」と、どこかで期待している自分がいます。
あれが現実だったのか、夢だったのかは今でも分かりません。しかし、あの山頂で見た風景と、あの時のお弁当の味だけは、今でも鮮明に覚えています。山頂のベンチに座って空を見上げるたびに、あの湖の景色が頭をよぎるのです。
いつかまた、あの不思議な場所に行けるのか、それとも一度きりの体験だったのか。答えはまだ出ていませんが、これからも私はその山を登り続けることでしょう。期待と不安を抱えながら、いつもの道を歩くことが、今や私の日課になっています。
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