これは、あるITエンジニアが体験した話です。彼は都内にある大規模なデータセンターで勤務していました。そのデータセンターは、24時間365日稼働しており、巨大なサーバールームには数千台のサーバーがずらりと並んでいました。エンジニアたちは交代制でシフトを組み、システムの監視やメンテナンスを行っていました。
彼のシフトは深夜帯で、他にスタッフは少なく、広い施設内はほとんど無人状態でした。深夜のデータセンターは独特の静寂に包まれており、サーバーの冷却ファンの音が常に低く響いていました。その音はどこか機械的で無機質であり、長時間聞いていると不気味さを感じることもありました。
ある日の深夜、彼はいつものようにモニターに向かい、サーバーの状態を監視していました。特に問題もなく、ルーチンワークをこなしていた時のことです。突然、警告音が鳴り響き、画面に異常を知らせるアラートが表示されました。彼は慌てて確認すると、冷却システムにエラーが発生していることがわかりました。
すぐにエラーが発生したサーバールームに向かい、問題を解決しようとしました。深夜のサーバールームは薄暗く、冷たい空気が漂っていました。彼は問題の場所へと向かい、チェックを始めました。モニターには冷却システムのエラーコードが表示されており、通常ならすぐに対処できるはずでした。しかし、コードの内容を確認しても、どこにも原因が見当たりません。
不思議に思いながらも、彼はサーバーラックのれきゃくシステムを確認しました。その時、背後からかすかな「カチカチ」という音が聞こえてきました。振り返ると、誰もいません。音の原因がわからず、少し不安になりつつも、作業に戻りました。しかし、再び「カチカチ…」という音が響き、今度は明らかに近くから聞こえてきました。
彼は再度周囲を見回しましたが、やはり誰もいません。サーバーラックの間は無機質な機械が並んでいるだけで、人影はどこにもありませんでした。彼は気味悪さを感じながらも、「深夜だし、疲れているだけだ」と自分に言い聞かせました。
再び作業を進めようとした時、今度はモニターに映し出されている画面に異変が生じました。画面が一瞬乱れ、ノイズが走ったのです。その瞬間、モニターに一瞬だけ人の顔のようなものが映り込みました。驚いて凝視しましたが、次の瞬間には画面は元に戻っていました。彼は「見間違いだろう」と思いつつも、動揺を隠せませんでした。
それでも作業を続けるうち、再び背後から「カチカチ…」という音が聞こえました。今度は音が次第に大きくなり、彼に迫ってくるように感じました。彼は耐え切れなくなり、すぐに作業を切り上げてその場を離れようとしました。その時、サーバーラックの間を通り抜ける際、視界の隅に何かが動くのを感じました。彼が振り返ると、ラックの隙間に一瞬だけ白い服を着た人影が見えました。
彼はその場で凍りつきました。人がいるはずがない場所に、確かに誰かが立っていたのです。しかし、すぐに消え去り、何も残っていませんでした。「こんなはずはない…」と思いながらも、彼は恐怖に駆られ、急いでデータセンターの監視室に戻りました。
戻ってからも、彼はモニターでそのサーバールームを監視しましたが、異常は見当たりませんでした。ただ、不気味なことに、監視カメラに映るその部屋の映像には、時折ノイズが走り、まるで誰かが監視カメラを見つめているかのような奇妙な気配が漂っていました。
その夜、彼はなんとか仕事を終えましたが、それ以降、深夜シフトの際には、サーバールームに一人で入るのを避けるようになりました。後日、同僚にその話をしたところ、似たような体験をした人が他にもいることがわかりました。特に深夜になると、サーバーラックの間を歩く足音が聞こえたり、誰もいないはずの場所で気配を感じるというのです。
そのデータセンターは、元々は工場跡地に建てられており、かつて事故で多くの作業員が亡くなったという噂がある場所だったそうです。彼が見た白い服の人影が、何かしらその過去と関係しているのかもしれません。
彼は今もそのデータセンターで働いていますが、深夜シフトの時には決して一人でサーバールームには行かないようにしています。あの時見た人影が再び現れるのではないかという恐怖が、今でも心に残っているからです。
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