怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

古いアパートで起こった奇妙な出来事 (怖い話 奇妙な話 不思議な話)

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転職を機に、私は一人暮らしを始めることになった。選んだのは、築50年を超える古いアパートだった。家賃が安く、交通の便も悪くない。多少の古さは気にしないつもりだったが、引っ越してすぐに、その決断を後悔することになるとは思ってもみなかった。

アパートは4階建てで、私は3階の一室に住むことにした。木造の建物は年季が入っており、廊下は薄暗く、足を踏み出すたびに床が軋む。部屋自体も古びており、壁紙は所々剥がれ、床には目立つシミがあった。だが、引っ越し当初はその程度のことだと気にも留めなかった。

しかし、引っ越して数日後、奇妙な出来事が起こり始めた。最初に異変を感じたのは、夜中のことだった。深夜、布団に入ってまどろんでいると、どこからか「カタ…カタ…」という音が聞こえてきた。隣の部屋からかと思ったが、どうも音の位置が近い。耳を澄ますと、音はどうやら自分の部屋の中からしているようだった。

私は恐る恐る起き上がり、音の出所を探した。音はどうやらクローゼットの中からだ。緊張しながらクローゼットの扉を開けると、そこには当然、何もない。だが、クローゼットの扉を閉めた後だった。その瞬間、背筋に冷たいものが走った。閉めたはずのクローゼットの扉が、ゆっくりと開いていたのだ。風もないのに、なぜか勝手に開いたように見えた。その時は、古いアパートだから建付けのせいだろうと自分を納得させた。

その夜はそれ以上の異変はなかったが、それ以降、部屋での違和感が増していった。例えば、鏡だ。ある朝、洗面所で顔を洗っていると、ふと鏡に映る自分の姿が見えなくなっていた。数秒後に何事もなかったかのように映ったが、その瞬間はまるで自分の存在が消えたかのような感覚に襲われた。

それからというもの、私は毎晩のように「誰かに見られている」ような気配を感じるようになった。部屋に一人でいるはずなのに、視線を感じるのだ。振り返っても当然誰もいないが、その感覚はますます強くなっていった。

そして、ある夜、最も恐ろしい出来事が起こった。

その日は仕事で遅くなり、帰宅したのは深夜過ぎだった。疲れていたため、すぐにシャワーを浴びて寝る準備をした。寝室の電気を消し、布団に入ろうとしたとき、不意に部屋の隅に違和感を覚えた。

薄暗い中、何かが立っているように見える。目を凝らすと、それは黒い人影のようだった。姿はぼんやりとしているが、確かにそこに「何か」がいる。瞬間的に恐怖が全身を駆け巡った。私は体が動かなくなり、視線を逸らすこともできない。影はじっと私を見つめているように思えた。

どれくらい時間が経ったか分からないが、意を決して私はベッドから飛び出し、部屋を出ようとした。逃げる途中でドアに手をかけた瞬間、足元で何かが動いた気がして思わず足を止めた。振り返ると、黒い影がこちらに向かってゆっくりと近づいてきていた。まるで、じわじわと私を追い詰めるかのように。

恐怖に駆られ、私は全力で部屋から飛び出し、廊下を駆け下りた。アパートの外に出るまでの間、背後から何かが迫ってくる気配を感じていた。心臓が激しく脈打ち、息が切れるのも忘れてただ走り続けた。

外に出た時、私はようやく立ち止まり、後ろを振り返った。だが、そこには何もいなかった。ただ静まり返った夜のアパートが佇んでいるだけだ。私は震える手でスマートフォンを取り出し、友人に連絡を取った。その夜は友人の家に泊めてもらい、朝まで眠れなかった。

翌日、私はすぐに引っ越しを決意した。あの部屋にはもう戻りたくない——そう思い、荷物を取りに戻ったのは昼間のことだ。明るい時間にもかかわらず、部屋の中にはまだどこか陰鬱な空気が漂っているようだった。荷物をまとめている最中も、何かが私を見ているような感覚が拭えない。

すべての荷物を運び出し、最後に部屋の鍵を閉めたとき、不意に視界の隅に黒い影がよぎった気がした。驚いて振り返ったが、そこには何もない。だが、その瞬間、鏡に映った自分の後ろに、確かに黒い影が立っていた。

その後、私は新しい部屋に引っ越し、ようやく平穏を取り戻した。しかし、今でも夜になると、あの黒い影が背後にいるような錯覚に襲われることがある。特に、ふと暗い部屋にいるとき、視線を感じると、あの時の恐怖が蘇る。

あの古いアパートで目撃した影は、今も誰かを見つめているのだろうか。そして、もし再びあの影が私を見つけたら、今度は逃げ切れるのだろうか——そんな不安が心の片隅にこびりついて離れない。

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