怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

誰もいないはずの部屋で感じる視線 (怖い話 奇妙な話 不思議な話)

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新しい仕事が決まり、私は一人暮らしを始めることになった。選んだ部屋は、築30年ほどの古いマンションの一室。広さはそこそこあり、家賃も手頃だったので即決した。最初の数日は順調で、特に問題もなく、新しい生活にすぐ慣れた。

しかし、引っ越してからしばらく経った頃から、部屋の中で奇妙な違和感を感じるようになった。特に夜、ベッドに横になると、背後から視線を感じることが多くなったのだ。最初は疲れのせいだろうと思い込もうとしたが、日を追うごとにその視線は強まり、無視できなくなっていった。

ある夜、深い眠りから突然目を覚ました。暗闇の中で、何かが私をじっと見つめているような感覚があった。心臓が早鐘のように鳴り、全身に冷たい汗が流れた。恐る恐る振り返ったが、当然そこには誰もいない。しかし、確かに誰かがこちらを見ているような、重苦しい視線を感じる。

不安に耐えかねて、私は部屋の電気をつけ、隅々まで調べてみた。クローゼットの中、カーテンの裏、家具の隙間——どこにも怪しいものは見当たらない。何も見つからないことで逆に恐怖が増したが、仕方なくそのまま夜を過ごした。

それから数日が過ぎても、視線を感じることは変わらなかった。夜中に目が覚めると、部屋の暗がりから何かが私を見つめているような気がしてならなかった。もはや精神的に限界が近づいており、この部屋にいることが苦痛になってきた。

そんなある日、掃除をしていた時、部屋の隅に小さな人形を見つけた。それは埃にまみれた、古びた人形で、明らかに私が持ち込んだものではない。引っ越しの際に気づかなかったが、どうやら最初からこの部屋にあったようだ。人形は人間の姿をしており、不気味に無表情な顔がこちらを見上げていた。

嫌な気配を感じた私は、すぐにその人形をゴミ袋に入れて捨てた。手に持った瞬間、ひどく冷たく感じたが、あまり深く考えずに処分した。すると不思議なことに、それ以来、あの視線を感じることはなくなった。私はほっとし、ようやく安心して眠れるようになった。

しかし、安心できたのも束の間だった。視線が消えた代わりに、奇妙な現象が起こり始めたのだ。夜中、突然電気が点いたり消えたり、テレビが勝手に作動したりするようになった。さらに、キッチンやリビングから誰もいないはずの足音が聞こえることもあった。まるで、何かが部屋の中を徘徊しているような気配を感じる。

その現象がエスカレートする中、ある晩、決定的な出来事が起こった。

夜中、突然目が覚め、耳元で何かが囁く音を聞いたのだ。「返して……返して……」それは低くかすれた声で、私の耳元で繰り返し呟かれた。恐怖に凍りつき、体が動かなくなった。何とか視線を動かすと、部屋の暗がりの中で、あの捨てたはずの人形がぼんやりと見えていた。

信じられないことに、人形は私のベッドの足元に立っていたのだ。しかも、その顔は以前見た無表情なものではなく、わずかに歪んでいるように見えた。まるで、怨みが込められたような、苦しげな表情に変わっていた。

私は恐怖のあまり声を出そうとしたが、喉が詰まって叫ぶこともできない。ただじっとその人形を見つめるしかなかった。すると、人形がゆっくりとこちらに歩み寄ってきたように見えた。その時、もう耐えられなくなり、私はベッドから飛び出して部屋を飛び出した。

翌朝、私はその部屋に戻ることができず、不動産屋に連絡してすぐに引っ越しの手続きを取った。どうにか荷物を取り出すために部屋に戻った時、部屋の中は以前と変わらない静寂に包まれていたが、捨てたはずの人形はどこにも見当たらなかった。それでも、再びあの部屋に住むことは考えられなかった。

引っ越しを済ませた後、私はあの視線も、奇妙な現象も感じなくなった。しかし、ふと夜中に目を覚ますと、耳元でかすかにあの声が聞こえる気がすることがある。「返して……返して……」それは一瞬で消えるが、胸の奥には嫌な予感が残り続ける。

私が捨てた人形は、今どこで何をしているのだろうか。そして、次にその人形を見つけた人は、同じ恐怖を味わうことになるのだろうか——そんなことを考えると、今でも背筋が寒くなる。

あの視線が再び私を見つけた時、今度は逃げ切れる自信がない。

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