友人の達也と共に、涼を求めて山間部へドライブに出かけた。その日、私たちはふとしたきっかけで、地図に載っていない小さな村に迷い込んだ。細い山道を進むうちに、古い木造の家々が並ぶ、どこか懐かしい雰囲気を持つ村が現れたのだ。
「なんだ、この村。地図にはなかったよな?」
達也が不思議そうに言ったが、私も見たことがない場所だった。けれど、村の風景にはどこか安心感があり、興味を引かれて車を降りた。道端に立っていた初老の男性が、私たちを見つけると微笑みながら近づいてきた。
「旅の方かい?よかったらお茶でもどうですか?」
村人たちは驚くほど親切で、温かく歓迎してくれた。聞けば、この村には観光客が滅多に訪れないらしく、私たちは久々の外来者だという。彼らの勧めで、村の一軒家に宿を取ることになった。
その晩、静かな夜空に浮かぶ星々を眺めながら、私たちは穏やかな眠りに就いた。しかし、翌朝、目を覚ますと、村の様子は一変していた。
家の前に出ると、村人たちが一人もいない。昨日の賑やかさが嘘のように、村は静まり返り、荒れ果てた廃墟のようになっていた。昨日まで花が咲いていた庭は雑草が生い茂り、木造の家々は朽ちて今にも崩れ落ちそうだった。
「達也、どうなってるんだ…?」
困惑する私たちは村を歩き回ったが、人の気配は全くない。車で村を出ようとするも、道がどこかおかしい。一本道だったはずの山道が、何度進んでも同じ場所に戻ってきてしまうのだ。出口を見つけることができず、私たちは何度も村に戻されてしまった。
時間が経つにつれ、不安と恐怖が募る。どうやら、私たちは「出られない」場所に迷い込んでしまったのだと直感した。絶望の中、達也は焦燥感から叫び声を上げた。
「なんでだよ!俺たちはただのドライブに来ただけなのに!」
その時、廃墟と化した家の一つから物音が聞こえた。恐る恐る中を覗くと、昨日親切に話しかけてくれた初老の男性が、暗闇の中に佇んでいた。彼は私たちに気づくと、無表情で静かに呟いた。
「ここは…逃げられないんだよ。」
彼の言葉は寒気をもたらした。彼はさらに続けた。
「ここに来た者は、皆消える運命だ。昨日の姿は、幻だよ。村はもう、ずっと前に滅びている。一度取り込まれたら、もう元には戻れない。」
恐怖が全身を駆け巡る。達也と私は、その言葉の意味を理解し、逃げ出そうとした。しかし、気づけば達也の姿が見当たらなくなっていた。辺りを見回しても彼の姿はない。声を上げて呼びかけても、返事はなかった。
ひとり村に取り残された私は、もう一度村を出ようと決意した。しかし、何度山道を進んでも出口に辿り着けない。やがて夜が訪れ、再び静寂が支配する村に、私は身を隠すようにして震えていた。
そして、気づいた時には私もまた、村の一部になっていた。今や私は「消えた村人」の一員だ。朽ち果てた村の中、次にこの村に足を踏み入れる者を待ち続ける存在として。
誰もが忘れ去ったこの場所で、次の訪問者が来る日を静かに待ち続けるのだろう。逃げられない運命を背負ったまま。
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