あれから数年が経った。僕たちが恐怖の体験をした「人形の館」は、噂通り今も取り壊されていない。町の外れにひっそりと佇むその廃屋は、相変わらず子供たちの間で「呪われた場所」として知られていた。誰も近づかないその家は、時の流れと共にさらに朽ち果て、外から見ても一層不気味な雰囲気を漂わせている。
しかし、時代が変わっても、好奇心と冒険心に満ちた子供たちは存在する。僕たちがかつて感じた恐怖を知らない新しい世代の子供たちが、再び「人形の館」に興味を持ち始めた。そして、ある日、4人の小学生の男の子が、あの家に足を踏み入れる決心をした。
その中でも特にやんちゃだったのが、ショウタという男の子だった。彼は怖いもの知らずで、学校でもリーダー格の存在だった。彼は仲間のリュウ、タクヤ、カズと共に、あの「人形の館」に行く計画を立てた。噂では、夜になると人形が動き出すとか、誰かの囁き声が聞こえるとか言われていたが、ショウタはそんな噂を笑い飛ばし、むしろその話を仲間にけしかけていた。
夕方、彼らは廃屋の前に集まった。家は以前よりさらに朽ち果てており、窓ガラスは割れ、壁はひび割れ、草木が建物を飲み込むように伸びていた。それでも、ショウタは全く怯むことなく、「行こうぜ!」と勢いよく裏口から侵入した。
家の中に入ると、独特のカビ臭い匂いが漂い、空気は重苦しかった。廊下は暗く、足を踏み出すたびに床が軋む。薄明かりの中、リビングにたどり着いた彼らは、そこに並んでいる人形たちを見つめた。何年も放置されたそれらの人形は、埃をかぶり、目は不気味に曇っていた。だが、その無数の人形たちは、以前と同じようにこちらをじっと見つめているようだった。
「これが噂の人形かよ?しょぼいじゃん!」ショウタは笑いながら、人形の一つに近づいた。それは古い着物を着た日本人形だった。彼はその人形を冷やかすように蹴飛ばした。
「おい、やめろよ!」リュウが止めようとしたが、ショウタは聞く耳を持たなかった。ガンッと音を立てて、人形は倒れ、顔が床に叩きつけられた。頭の中では、何か壊してしまったのではないかと一瞬不安がよぎったが、ショウタは「ただのガラクタだろ?」と笑い飛ばし、また蹴り飛ばそうとした。
しかし、その時——部屋の中の空気が突然変わった。何か見えない力が、彼らを包み込んだような感覚がしたのだ。タクヤとカズは無言で顔を見合わせ、明らかに異常な空気を感じ取っていた。
「もう帰ろうぜ、ここ、ヤバいよ…」カズが震える声で言ったが、ショウタは「ビビってんのか?」と笑い、意地でも引き下がらなかった。しかし、次の瞬間、彼は突然黙り込んだ。顔が青ざめ、視線が一点に固定されたまま動かなくなった。
「どうしたんだよ?」リュウが心配して声をかけるが、ショウタは何も答えない。ただ、瞳が何かを捉えたまま、微動だにしないのだ。
「帰ろう、早く!」タクヤが叫び、彼らは慌てて廃屋を飛び出した。ショウタは何とか足を動かしてついてきたが、家を出た後も無言のままで、その目は虚ろで焦点が定まっていなかった。
その日以来、ショウタは別人のようになってしまった。彼は明るく活発な性格から一転し、無口で無表情になった。学校でも友達と話すことが減り、いつもぼんやりと一点を見つめているようになったのだ。誰が話しかけても反応が薄く、まるで魂が抜けたようだった。
そして、ある日、ショウタは突然失踪した。朝、彼の部屋に入った家族が気づいたときには、彼の姿はどこにもなかった。家には鍵がかかっておらず、どこかに出かけた形跡もない。警察が捜索しても、何の手がかりも見つからなかった。
その後、ショウタの家族は、彼が最後に友達と「人形の館」に行ったという話を聞き、廃屋を調べたが、特に異常は発見されなかった。ただ、一つだけ奇妙なことがあった。廃屋の中に残っていたあの日本人形が、以前と違う場所に移動していたのだ。そして、その人形の顔には、どこかショウタに似た表情が浮かんでいるように見えた。
リュウ、タクヤ、カズはその後、ショウタの話をすることを一切避けるようになった。彼らもあの夜以来、廃屋に近づくことは決してなかった。町では、「人形の館」の呪いだという噂が広まり、誰もがその場所を避けて通るようになった。
そして今でも、夜になると廃屋の中から「カタ…カタ…」という何かを引きずる音が聞こえてくるという。それは、失踪したショウタが戻ってきたのか、あるいは新たな犠牲者を求めて人形が動き出したのか——その真相を確かめようとする者は、誰もいない。
「人形の館」は、静かに朽ちていくかと思いきや、今もなお、不気味な存在感を放ち続けている。そして、あの場所に足を踏み入れる者は、決して無傷では帰れないのだ。
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