私の実家は、築60年以上経つ古い木造の家だ。床は昔ながらの畳で、その下には広い床下収納スペースがある。子供の頃は、床下が私にとって秘密基地のような場所だった。夏の暑い日には、涼しい空気を求めて床下に潜り込み、探検を楽しんでいたのだ。薄暗い空間に潜む未知のものに対する好奇心とわずかな恐怖が、子供心にはちょうど良い冒険だった。
しかし、大人になった今、あの床下に足を踏み入れる勇気はない。時間が経つにつれて、床下はただの不気味な場所になり、そこには何か得体の知れないものが潜んでいるような気がしてならなかった。特に夜になると、床下から微かな音が聞こえることがあり、そのたびに背筋が凍る思いをしていた。
ある年の夏、久しぶりに実家に帰省した私は、一晩実家に泊まることになった。家族はすでに他界しており、今やこの古びた家には誰も住んでいない。夜になると、田舎の静寂が耳に痛いほど響き、家全体が重たい空気に包まれる。私は昔の記憶が蘇るのを感じながら、幼少期に使っていた和室で布団に入った。
深夜、ふと目が覚めた。薄暗い部屋の中で、何かが気になって眠れない。静寂の中に微かに混じる、何かの音——それは床下から聞こえてくるようだった。耳を澄ますと、はっきりと「ザリ…ザリ…」という音が響いている。まるで何かが床下を這いずり回っているような音だった。
心臓がドクドクと鳴り始め、体が硬直した。子供の頃には感じなかった、得体の知れない恐怖が全身を覆った。私は布団から出ることができず、ただじっと音が止むのを待つしかなかった。しかし、音は一向に止む気配がない。それどころか、徐々に音が大きくなり、床下から部屋の中央へ向かっているように感じられた。
「ザリ…ザリ…」
音は規則的に続き、時折、重たい物が擦れるような音も混じる。まるで何かが床下を掘り進んでいるかのようだ。私は恐怖で息を潜め、布団の中に身を縮めた。懐中電灯を手に取ろうとしたが、動こうとするたびに体が凍りつき、思うように動けない。
その時、不意に音が止んだ。張り詰めた静寂が戻り、私は恐る恐る布団の中から顔を出した。耳を澄ませても、何も聞こえない。緊張が和らぎ、ほっとしたのも束の間、今度は布団のすぐ横で「カリ…カリ…」と小さな音がした。
私は絶望的な恐怖に襲われ、布団の中に再び頭を引っ込めた。床下にいる「何か」が、まるで私のすぐ側にいるような気配を感じる。音は徐々に大きくなり、まるで床板を引っ掻いているかのようだった。
「ザリ…ザリ…カリ…カリ…」
音は一瞬止まり、次の瞬間、床板を強く叩くような「ドンッ」という音が響いた。心臓が跳ね上がり、私はもう一歩も動けなくなった。誰かが床下から這い出てくる——そんな恐怖が頭をよぎり、全身が震えた。
音は再び静寂に戻り、それから先は何も聞こえなくなった。しかし、私は朝が来るまで布団の中で固まっていた。何時間が経ったのか分からないが、ようやく朝日が差し込むと、ようやく布団から出ることができた。
翌朝、私は恐る恐る床下を確認することにした。懐中電灯を片手に床下の扉を開け、薄暗い空間を覗き込む。そこには、昔と変わらず、埃まみれの静かな空間が広がっていた。しかし、よく見ると、床の一部に不自然な掘り跡が残っていた。まるで何かがそこを引きずられたかのような、長い跡だ。
その瞬間、背後に気配を感じ、振り返ったが、誰もいない。しかし、確かに何かが私の背後にいた——そう感じた。
その後、私はその家をすぐに後にした。あの床下には、何か私たちの知らない存在が潜んでいるのかもしれない。子供の頃には感じなかった不気味さが、今ではあの家全体に染みついているようだった。
今でも、実家の床下から這いずり回る音が聞こえることがある——そんな気がしてならない。もし次にあの家に足を踏み入れることがあれば、今度は本当にその「正体」を見つけてしまうかもしれない。それが何であれ、見つけた後、私が無事でいられるかどうかはわからない。
田舎の実家には、古い思い出と共に、決して触れてはいけない「何か」が眠っているのかもしれない——それは、私たちの知らない秘密の一部として、今も床下で静かに息を潜めているのだろう。
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