私が一人暮らしを始めたのは、都会から少し離れた静かな住宅街にある古いアパートだった。周囲は緑に囲まれ、夜になると虫の音が心地よく響く、落ち着いた環境だった。アパート自体は築年数がかなり古いが、家賃が安く、住人も少ないため静かで、私にとっては理想的な場所だと思っていた。
引っ越してからしばらくは特に問題もなく、穏やかな日々が続いていた。しかし、ある夜を境に、奇妙な音が聞こえるようになった。
その夜は、夏の終わり頃だった。昼間はまだ暑いものの、夜になると涼しい風が吹き抜け、窓を少し開けたまま寝ることが多かった。深夜2時頃、私は何かの音で目が覚めた。最初は気のせいかと思い、そのまま寝直そうとしたが、再び耳を澄ませると、かすかに「ザクッ…ザクッ…」という音が聞こえる。
その音は、何かを掘っているような音だった。シャベルやスコップで土を掘り返すような鈍い音が、規則的に続いている。音は窓の外から聞こえてくるようだったが、周囲には住宅が並んでいるだけで、庭や畑があるわけではない。こんな時間に誰が何を掘っているのか、私は不審に思いながらも、怖さがじわじわと広がっていった。
翌朝、気になった私は外を確認してみたが、特に異常は見当たらない。音の聞こえた方向にはただの草むらが広がっているだけだった。だが、その草むらには、何かが引きずられたような細長い跡が残っていた。私は何となく不気味さを感じつつも、仕事で疲れていたため、その日は深く考えずにそのまま過ごした。
しかし、その夜も同じ時間に「ザクッ…ザクッ…」という音が再び聞こえてきた。音は前日よりもはっきりしており、何かが掘られていることは間違いないようだった。私は恐る恐るカーテンを少し開け、外を覗いた。そこには何も見えない。ただ、月明かりがぼんやりと草むらを照らし出しているだけだ。
それでも音は確かに続いている。「ザクッ…ザクッ…」まるで誰かが黙々と何かを埋めるような、無機質で機械的なリズムで繰り返される。その瞬間、背筋が凍るような感覚に襲われた。もし本当に誰かが何かを埋めているとしたら、一体何を埋めているのだろう?
私はその夜、恐怖で眠れなかった。朝になってようやく眠りに落ちたが、心のどこかで「その音の正体を確かめなければならない」という気持ちが湧いてきた。
次の夜、私は意を決して、その音の正体を突き止めることにした。音が聞こえる時間帯に起きて待機し、再び「ザクッ…ザクッ…」という音が響き始めた頃、懐中電灯を手に外に出た。
音の出所を探しながら、足を進める。音は確実に草むらの中から聞こえている。近づくにつれ、音は次第に大きくなり、私の心臓もドクドクと早鐘を打ち始めた。草むらの中で、何かが動いているのが見えた。
私は恐怖と好奇心が入り混じる中、その動く影に懐中電灯を向けた。光が捉えたのは、一人の人影——だが、その顔は土で汚れ、髪は乱れ、目は虚ろに見開いていた。その人物は私に気づくことなく、ただ無心で地面を掘り続けていた。
「ザクッ…ザクッ…」
そのリズムが止まることはなく、まるで何かに取り憑かれたかのように、掘る動作を繰り返している。私は声を出すこともできず、ただ立ち尽くしていた。やがて、その人影が掘っていた穴に何かを放り込むのが見えた。だが、それが何だったのかは確認することができなかった。
その瞬間、足がすくみ、恐怖が全身を支配した。私は何も考えずにその場から逃げ出し、アパートに戻った。ドアを閉め、鍵をかけ、心臓が激しく脈打つのを感じながら布団に潜り込んだ。外の音はもう聞こえなかったが、頭の中ではまだ「ザクッ…ザクッ…」という音が鳴り響いていた。
翌朝、私は早々に荷物をまとめ、アパートを後にした。あの草むらで掘られていたものが何だったのか、そしてその人影が何を埋めていたのかは、今も知る勇気がない。もしあの場で正体を確認していたら、私は無事でいられたのだろうか?
あの音が意味するものが、私を引きずり込もうとしていた何かだったとしたら——考えるだけで身震いする。
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