最近、家の整理をしていると、押入れの奥から古い電話機が出てきた。古い家電が次々とデジタル化されていく中で、すっかり忘れ去られていたものだ。埃をかぶったその電話機は、もう10年以上前の代物で、昔は電話線をつないで使っていたのを思い出す。
懐かしさから、私はその電話をコンセントに繋ぎ、留守番電話の再生ボタンを押してみた。すると、幾つかの古いメッセージが順番に再生された。ほとんどがもう不要な内容で、誰が何を言っていたかすら覚えていない。しかし、最後の一件で私は手を止めた。
「未来がわかるなら、どうする？」と、聞き覚えのある声が突然流れた。それは間違いなく、数年前の自分の声だった。だが、そんなメッセージを残した記憶は全くない。驚きと不気味さが混じり合い、背筋が冷たくなった。メッセージは続く。
「今から言うことを、絶対に忘れないで……」
その瞬間、私の心臓が早鐘を打った。声は真剣で、まるで誰かに警告しているかのような緊張感があった。メッセージの内容は具体的で、現在の自分が抱えている状況と奇妙に一致していた。まるで未来を予知しているかのようだった。
「気をつけろ、彼が現れる。ある晩、家の外で足音が聞こえたら、絶対にドアを開けるな。」
私は愕然とした。最近、夜中に何度か足音を聞くことがあったが、それを話した相手は誰もいない。それどころか、その足音を無視していた自分が、未来の自分から警告を受けるなんてあり得ない話だ。
一瞬、何かのいたずらかと思ったが、声が明らかに自分のものだったことが頭を混乱させた。なぜ数年前の自分がそんなことを言っているのか？ それに、このメッセージが残された日付は、自分がその留守番電話を使わなくなった時期に近い。まるで、留守番電話が今この時を待っていたかのように。
その夜、私はメッセージのことが頭から離れず、不安な気持ちで眠りに落ちた。そして、夜中の2時過ぎ、家の外で微かに「コツ…コツ…」という足音が聞こえた。普段は気にしないようにしていたが、その音が徐々に家に近づいてくる感覚がした。
留守番電話の声が脳裏によぎる。「足音が聞こえたら、絶対にドアを開けるな。」
恐怖が膨らみ、全身が凍りついたように動けなくなった。ベッドの中で息を潜め、耳を澄ませた。足音は止まらない。音は確実に近づいてくる。玄関の前でピタリと止まった瞬間、息が止まりそうになった。
すると、今度は「トントン…」と、軽くドアを叩く音が響いた。誰かがそこにいる。心臓が激しく脈打ち、冷や汗が背中を伝った。ドアを開けて確認したい気持ちと、絶対に開けてはいけないという恐怖が葛藤する。留守番電話のメッセージがまざまざと頭に蘇る。
「ドアを開けるな。」
私は何とか恐怖を押さえ込み、布団の中でじっと耐え続けた。ドアの叩く音はしばらく続き、その後、ゆっくりと消えていった。やがて足音も遠ざかり、家の中は再び静寂に包まれた。
その夜、私はほとんど眠れなかった。朝になり、恐る恐る玄関を確認したが、特に異常は見当たらなかった。ただ、ドアノブにはうっすらと手の跡が残っていた。それを見た瞬間、あのメッセージが単なる偶然や妄想ではなかったことを痛感した。
その後、私は留守番電話の再生を何度も繰り返し、内容を詳細に分析したが、どれだけ聞いても自分の声にしか聞こえない。しかし、どう考えてもあのメッセージを残した記憶はない。あれは一体何だったのか？
それ以来、夜中に足音が聞こえても決してドアを開けないようにしている。しかし、恐ろしいことに、最近またあの留守番電話に新しいメッセージが録音されていたのだ。
それは、まるで今の自分に向けたさらなる警告のようだった。
「次に足音が聞こえたら、今度は逃げられない。」
その言葉が何を意味するのかはわからない。だが、私は確信している。このメッセージは、間違いなく「未来の自分」からのものだ。そして、次にその足音が聞こえたとき、私は本当に無事でいられるのだろうか——。
留守番電話の再生ボタンを押すたび、冷たい恐怖が全身を支配する。過去と未来が交錯する中、私は何が現実で何が虚構なのか、もうわからなくなっている。
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