これは、大学生のAさんが夏休みにリゾートバイトをした時の話です。彼女は夏休みを有意義に過ごすため、自然豊かな山間のリゾート地で1ヶ月間のバイトをすることにしました。美しい景色に囲まれたそのリゾートは、観光客に人気があり、温泉やキャンプ場、ハイキングコースなどが整備された場所でした。バイト先の寮もリゾート内にあり、自然の中での生活が楽しめることが、彼女にとっての魅力でした。
バイトは主に観光客の案内や、施設の清掃などの雑務でしたが、職場の雰囲気も良く、同じくバイトに来ていた他の大学生たちともすぐに仲良くなりました。忙しいながらも充実した日々を送っていましたが、ある日、彼女たちは寮の先輩からこんな話を聞きました。
「この寮、実は少し前まで使われてなかったんだよ。理由は…まあ、いろいろあったらしいけど、詳しいことは誰も教えてくれないんだよね。」
先輩は笑いながら話しましたが、少し不気味な話にAさんたちは興味を持ちました。何か怖い話でもあるのかと軽い気持ちで聞き流していましたが、実際にその寮で体験することになるとは思ってもいませんでした。
それは、バイトも半ばに差し掛かった頃のことです。その日は特に疲れていたため、Aさんは夕食後すぐに部屋へ戻り、ベッドに横になりました。部屋は2人部屋で、ルームメイトのBさんはその日は遅番で、まだ戻っていませんでした。部屋の窓からは、夜風が心地よく吹き込み、山間の静かな空気に包まれていました。
深夜、Aさんは突然、誰かが部屋のドアをノックする音で目を覚ましました。「Bさんが帰ってきたのかな？」と思いながらドアを開けましたが、廊下には誰もいませんでした。不思議に思いながらも、Aさんは「風の音で何かが揺れたのかな」と自分に言い聞かせ、再びベッドに戻りました。
しかし、しばらくすると再び「コンコン…」とノックの音が響きました。今度は明らかに人がノックしている音でした。Aさんは少し不安を感じながらも、もう一度ドアを開けましたが、やはり廊下には誰もいません。周囲を見渡しても、静まり返った廊下には人の気配はありませんでした。
その瞬間、背筋に寒気が走りました。「もしかして誰かのいたずら？」とも考えましたが、誰かが隠れている様子もありません。恐怖を感じたAさんは、急いで部屋のドアを閉め、鍵をかけました。
しばらくして、Bさんが戻ってきました。Aさんはさっきの出来事を話しましたが、Bさんは「多分、誰かがふざけてるんじゃない？」と気に留めていない様子でした。Aさんも「そうかもしれない」と思い直し、そのまま眠りにつこうとしました。
しかし、次の日の夜、さらに不気味な出来事が起こりました。その夜もBさんは遅番で、Aさんは一人で部屋にいました。深夜2時ごろ、またしても「コンコン…」とノックの音が響きました。Aさんは驚いて目を覚ましましたが、今回はドアの前で足音が聞こえるのです。誰かがゆっくりと歩いているような音が、廊下に響き渡っていました。
恐怖で身動きが取れないまま耳を澄ませていると、今度はその足音が部屋の中に入ってきたように感じられました。ドアを開けていないのに、何かが部屋の中に入ってきたような気配がしたのです。そして、その気配はAさんのベッドのすぐそばで止まりました。
「ここにいる…」という囁き声が、頭の中で響き渡りました。Aさんは恐怖で体が動かず、ただ布団を頭から被って震えていました。その時、誰かが布団をゆっくりと引っ張る感覚がありました。もう耐えきれなくなったAさんは、声にならない悲鳴を上げ、布団を強く握りしめました。すると、突然、すべての気配が消え去り、部屋は静寂に包まれました。
翌朝、Bさんにこの出来事を話すと、今度はBさんも顔を青ざめました。「実は、私も昨日の夜、寮の階段で誰かに見られている気がして…怖くて早く部屋に戻ったんだ」と告白しました。
その後、他のバイト仲間にもこの話をしてみると、同じように夜中にノック音を聞いたり、廊下で誰かの気配を感じたという話が次々に出てきました。どうやら、この寮では何年も前から同じような現象が繰り返されているというのです。
Aさんはそのバイト期間を何とか乗り切りましたが、それ以降、夜の寮が不気味で仕方がありませんでした。バイトが終わり、寮を出る時には、二度とここに来たくないと強く感じたと言います。
リゾートバイトで楽しい思い出もたくさんできましたが、あの寮での恐怖体験だけは今でも忘れることができません。あのノック音と気配が、誰のものだったのかは今も謎のままです。
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