ある夏の夜、僕と友人の高志は、夜釣りに出かけた。場所は地元でも有名な防波堤で、昼間は家族連れや観光客で賑わう場所だが、夜になると釣り人だけが訪れる。星がきらめく静かな夜、波の音を聞きながらのんびりと釣りを楽しむ、そんな計画だった。
防波堤に着いたのは午後11時過ぎ。辺りは真っ暗で、他の釣り人は見当たらない。防波堤の先端に向かって歩いていると、遠くにポツンと一人の釣り人の姿が見えた。その人は、足元にランタンを置き、黙々と釣りをしているようだった。
「誰かいるみたいだな。あの人、結構奥の方でやってるみたいだし、俺たちはここらでやろうぜ。」と高志が言い、僕たちはその釣り人から少し離れた場所に釣り道具を広げた。静かな夜、波の音と風のざわめきだけが聞こえる。僕たちはリールを投げ込み、釣り糸が水面を切る音が響いた。
しばらくして、妙な感覚が僕を襲った。風も波も穏やかで、夜釣りにしては完璧な環境なのに、何かが引っかかる。背後の暗闇から、何者かに見られているような気がしてならない。
「おい、高志、なんか感じないか?」僕が不安げに尋ねると、彼も少し戸惑った表情で「実はさっきから気になってたんだけど、あの奥の釣り人、ずっと同じ姿勢で動いてなくね?」と答えた。
僕たちは改めて防波堤の先端を見つめた。確かに、最初に見かけた釣り人はまるで石のように動かず、ただ海に向かって立ち続けているように見えた。ランタンの明かりが微かに揺れているが、その人物自体はまったく変化がない。
「もしかして具合が悪いとか?」と僕たちは気になり、確認しに行くことにした。
ゆっくりとその人物に近づくにつれて、僕たちは異様な雰囲気を感じ始めた。足音が砂利に吸い込まれるように小さくなり、海風が耳元で低くうなる。その釣り人は、こちらが近づいても微動だにしない。ただ、背中越しに海をじっと見つめ続けている。
「すみません、大丈夫ですか?」僕が声をかけるが、返事はない。さらに近づいて背中越しに顔を覗き込もうとしたその瞬間――釣り人は、ふっと防波堤から消えた。
僕と高志は呆然と立ち尽くした。目の前で見ていたはずの人物が、まるで煙のように消え去ったのだ。そこにはランタンも釣り道具もなく、ただ静かな波の音だけが響いている。
「今の……見たか?」高志が震えた声で言う。僕も声が出せず、ただ頷くだけだった。目の錯覚だとか、気のせいだとか言い聞かせたかったが、二人とも明らかに何か異常なものを目撃した。
僕たちは恐怖心に駆られ、その場から逃げるように車へと戻った。防波堤を振り返ると、消えたはずの釣り人が再び現れ、また同じ場所で海を見つめているように見えた。
果たして、あの夜僕たちが見たものは何だったのか。確かにそこにいたはずの釣り人は、現実だったのか、それとも……?
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