怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

古時計の刻む恐怖 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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休日の午後、俺は何気なく近所を散歩していると、古びた骨董店を見つけた。小さな店で、看板も錆びついている。普段なら素通りしてしまいそうな店だったが、その日はなぜか気になり、ふらっと中に入ってみることにした。

店内は薄暗く、独特の古い匂いが漂っていた。店主らしき年配の男が、黙ってカウンターの奥に座っている。視線を感じたが、特に声をかけられることもなく、俺は勝手に店内を見て回った。アンティークの家具や古い陶器、埃をかぶった本が雑然と並んでいる中で、ひとつの古時計が目に留まった。

その時計は、木製の掛け時計で、どっしりとした重厚感があり、どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。文字盤はくすんでおり、時刻を示す針は12時の位置で止まっていた。興味を引かれ、手に取ってみると、店主が「それは古い時計で、今は動かないが、飾りとしては悪くないだろう」と言った。値段を聞くと驚くほど安く、何かの縁だと思い、その場で購入を決めた。

家に戻り、リビングの壁に時計を掛けてみると、部屋の雰囲気に意外と馴染んだ。動かない時計だが、アンティークな雰囲気が気に入り、そのまま放っておくことにした。だが、日が暮れ、夜が訪れた頃、異変が起こり始めた。

その夜、いつものようにテレビを見ていた俺は、ふと奇妙な音に気づいた。耳を澄ますと、どこか遠くから古いオルゴールのようなメロディが聞こえてくる。静かで不気味なその音は、リビングの中に確かに響いていた。音の出所を探ると、それはあの古時計から流れていることに気づいた。

「動かないはずの時計が音を出している…?」

胸騒ぎを覚え、時計を手に取ってみたが、内部にオルゴール機構があるわけでもない。だが、確かにその音は時計から流れていた。怖くなりながらも、「気のせいかもしれない」と自分に言い聞かせ、その日は寝ることにした。

しかし、その夜、さらに不気味な出来事が起こった。

深夜、突然目が覚めた。枕元の時計を見ると、時刻は午前0時。部屋は静まり返っているが、再びあのメロディが聞こえてきた。まるで人を不安にさせるような、ゆっくりとした旋律が静かに響いていた。俺は布団の中で固まり、音が止むのを待ったが、音は次第に大きくなっていった。

恐る恐るリビングに向かうと、時計の針が12時を指したまま、まるで生きているかのように微かに揺れているのが見えた。その瞬間、背後から冷たい風が吹き、肌がざわついた。振り返っても誰もいない。しかし、確かに部屋の空気が重く、冷たい視線を感じた。

それからというもの、奇妙な現象が続いた。毎晩、0時になると時計からメロディが流れ、部屋の中で物音がするようになった。壁の中から何かが這うような音や、廊下で誰かが歩く足音が聞こえることもあった。だが、確認しても当然誰もいない。

さらに不気味なのは、時計の針が12時の位置から微妙にずれ始めたことだった。最初は気のせいかと思ったが、日を追うごとに針はわずかに動いていることに気づいた。だが、それは通常の時計の動きとは異なり、不規則に動いてはまた止まるという奇妙な挙動を繰り返していた。

一度、怖くなって時計を取り外し、押し入れにしまったことがある。だが、その夜も変わらずメロディは鳴り響き、押し入れの中から不気味な振動音が聞こえた。まるで時計が外に出たがっているかのように、何かが内側から叩いているようだった。

それから数日後、決定的な出来事が起こった。

その日は特に疲れていて、早めに寝ることにした。夜中にふと目が覚めると、またしても時計のメロディが流れていた。時計は押し入れの中にしまってあるはずなのに、音は確かにリビングから聞こえてくる。不安に駆られ、リビングに行ってみると、なぜか時計が元の場所に掛けられていた。

恐る恐る近づくと、針が12時の位置で止まっている。そして、その瞬間、時計が急にカチカチと音を立てて動き出し、針が少しずつ逆回りし始めた。動かないはずの時計が、まるで時間を巻き戻すように逆行しているのだ。

同時に部屋中が冷たくなり、背後から視線を感じた。振り返ると、そこにはぼんやりとした人影が立っていた。顔は見えないが、長い髪の女性のようだった。その姿は揺らめきながら徐々に近づいてきた。

動けないまま固まっていると、影が俺の耳元で低い声で囁いた。

「戻ってきた…」

その声が頭の中に響き、全身が硬直した。恐怖でその場に崩れ落ちると、影はゆっくりと消え、同時に時計のメロディも止まった。

翌朝、俺はすぐに骨董店に向かい、店主にこの出来事を話した。骨董品やドアには「閉店のお知らせ」の張り紙があった。ノックしたり声をかけてみたがすでに誰もいないようだった。

それ以来、時計は再びリビングに掛けられているが、夜になると不気味なメロディが響き渡る。今でも針は12時を指したままだが、いつまた動き出すのか分からない。あの人影が再び現れるのではないかという恐怖に怯えながら、俺は日々を過ごしている。

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