ある日の午後、俺は仕事帰りにふと立ち寄った古書店で、一冊の古びた怪談本を見つける。埃をかぶった背表紙には、「禁書」とだけ記されていた。普段はホラー小説には興味がない俺だが、その日はなぜか手に取らずにはいられなかった。不思議な引力に引き寄せられるかのように、ページをめくり、無意識にレジへと向かっていた。
家に帰り、夕飯を終えた後、早速その本を読み始めた。内容は古い民間伝承や幽霊譚が集められた短編集で、独特な雰囲気に満ちていた。だが、奇妙なのは、その本を読み進めるたびに、ページの隅が少しずつ湿り、手に冷たい感触が残ることだった。
最初の異変はその夜だった。寝室の隅に、黒い影のようなものがゆっくりと蠢いていることに気づいた。瞬きをするとそれは消え、気のせいだと自分に言い聞かせたが、背中にじっとりとした汗がにじんでいた。
次の日から、家の中で奇妙な現象が頻発するようになる。照明が勝手に点滅したり、家具の位置が微妙にずれていたり、聞き覚えのない囁き声が耳元で響くようになった。さらに、鏡に映る自分の背後に、一瞬だけ人影が見えるようになった。だが振り返ると、当然そこには誰もいない。
職場でも集中できず、仕事の効率が落ちていた。特に夜になると、視界の端で人影が見えることが増え、眠りにつくのが怖くなってきた。そこで、あの怪談本を処分しようと決心した。しかし、不思議なことに、その本を捨てようとすると手が震え、まるで体が拒絶するかのように行動できなくなる。
ある晩、ついに耐えられなくなった俺は、その本の最終ページを開いた。そこには、次のような一文が書かれていた。
「この書を最後まで読んだ者は、運命に従い、次の所有者を見つけねばならない。さもなくば、その身は呪いに囚われる。」
その瞬間、部屋の中が異様な冷気に包まれた。背後で何かが確かに動いた。恐怖に駆られ振り返ると、そこには黒い影がこちらをじっと見つめていた。目のようなものが浮かび上がり、まるで笑っているかのようだった。
逃げるようにして部屋を飛び出し、その夜は友人の家に泊まった。しかし、どこへ行っても、視界の端には必ず黒い影が付きまとっていた。
翌日、古書店に戻り、店主にこの本について尋ねた。しかし、店主は不思議そうな顔をし、「そんな本はうちには置いていない」と言う。さらに、後日その場所を再度訪れると、あったはずの古書店自体が、まるで最初から存在していなかったかのように消えていた。
絶望に駆られた俺は、インターネットで同じ本を手にした人々の体験を調べ始めた。すると、どれも似たような結末を迎えていることがわかった。その本を手放さない限り、呪いは続き、やがて影は形を持ち、「所有者」をこの世から消し去るというのだ。
残された選択肢は一つ――本を次の「所有者」に渡すこと。しかし、それが誰であっても、結果的に呪いの連鎖を増やすことになる。その罪悪感に耐えかね、俺はついに最後の手段を取ることにした。
夜中、誰もいない川岸に立ち、その本を川に投げ捨てた。その瞬間、背後で重い気配が消えたことに気づいた。安堵感とともに帰路に着いた俺だったが、家に戻ると、玄関に投げ捨てたはずの本が静かに置かれていた。
俺はもう逃れられないと悟る。最後に、この怪談をネットに書き込み、次に「所有者」になりたいと誰かが思ってくれることを祈りながら――。
最後に
呪いの本は、ただのフィクションとして終わるのか、それとも実際に手にしてしまった人が新たな犠牲者になるのか。この物語が警告となり、皆が不用意に古書を手に取ることを避けられることを願っている。
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