夏の終わり、地元の友人たちと久しぶりに集まることになった。昔からの仲間で集まると決まって肝試しや怪談話が恒例だったが、その年は特に「百物語」をやろうという話になった。百物語には、最後の話を語り終えたときに怪異が起こるという噂があり、俺たちは半ばその怖さを試す気持ちで挑戦することにした。
場所は、地元でも有名な心霊スポットの廃墟となった旅館。かつては賑わっていたらしいが、ある事故をきっかけに閉鎖され、その後は荒れ果てたまま放置されている。真夜中、薄暗い懐中電灯の明かりだけを頼りに、俺たちは旅館の一室に集まった。
蝋燭を100本並べ、順番に一話ずつ怪談を語り、語り終えるたびに一本ずつ蝋燭を消していく。最初は明るい気持ちで始まったが、夜が深まるにつれて次第に冗談を言う者もいなくなり、重苦しい雰囲気が漂い始めた。
語り始めてから数時間が経ち、90話を超えた頃、仲間の一人であるKが急に「背中が寒い」と言い出した。気にしないようにしていたが、その寒さは他のメンバーにも伝わり、誰もが背中に冷たい視線を感じるようになった。
誰が言い出したのか、次第に「この場所自体が呪われているのではないか」という話になった。廃墟の旅館には過去に多くの怪談がある。火事で亡くなった従業員や、行方不明になった宿泊客の霊が出ると噂されていたが、俺たちはそれを試しているようなものだった。
99話目を語り終え、蝋燭は残り一本になった。そのとき、不意に窓の外からガリガリと何かが這うような音が聞こえた。全員が息を呑んで耳を澄ましたが、音は一瞬で止んだ。誰も口を開かず、ただじっと残りの蝋燭を見つめていた。最後の話を語るのは、リーダー格のYの役目だった。
Yは落ち着いた声で、自分が昔体験したという話を始めた。それは、ある晩に夢で見た光景が現実になったという話だった。夢の中で、Yは見知らぬ廃屋に迷い込み、そこで影のような存在に追い詰められる。目が覚めた時、背中には冷たい感触が残り、そしてその廃屋は現実に存在していたという。
Yが話し終えた瞬間、蝋燭の火が静かに消え、部屋は完全な闇に包まれた。誰もが息を殺し、次の瞬間に何が起こるのかを待った。そのとき、突然Yが「聞こえるか?」と囁いた。耳を澄ますと、確かにどこからか低い唸り声のような音がしていた。
「来た…」Yが呟いた。その瞬間、廊下から誰かが駆け寄るような足音が響き、ドアがガタガタと揺れた。誰も動けず、ただ固まっていたが、Yは立ち上がり、まるで引き寄せられるようにドアに向かって歩き始めた。
「開けるな!」と仲間が叫んだが、Yは振り返ることなくドアに手をかけた。ドアがゆっくりと開き、廊下の闇の中にYの姿が吸い込まれるように消えていった。全員が慌てて追いかけたが、廊下には誰もいなかった。Yは、まるで跡形もなく消えていたのだ。
その後、警察や地元の人々も探しに来たが、Yは結局見つからなかった。あの夜、俺たちは確実に「何か」を呼び出してしまったのだと思う。それ以来、俺たちの仲間の間では、百物語の話は二度と持ち出されることはなかった。
Yが最後に話した内容は、今でも頭から離れない。あの夢で見た廃屋こそ、俺たちが集まった旅館だったのではないか――。もしそうなら、Yは最初からあの場所に「戻る」運命だったのかもしれない。
その後も、あの廃墟には近づく者はいない。今でも夜中にあの旅館に近づくと、微かに誰かの囁き声が聞こえるという噂が残っている。百物語は遊びでは済まされない。語り終えた者は、何かを背負ってしまうのかもしれない。
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