怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

知らない髪の毛が絡みつく恐怖 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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俺は30代のサラリーマンで、一人暮らしをしている。都内の賃貸マンションで、部屋はワンルーム。特別広くもなく、古くもない、どこにでもある普通の部屋だ。仕事が忙しく、家にいる時間は夜遅くか週末ぐらいだったが、そこまで不満はなく、快適に過ごしていた。

ところが、ある日を境に、奇妙なことが起こり始めた。

その日は特に疲れていて、夜遅くに帰宅した。シャワーを浴びて、すぐにベッドに倒れ込むようにして眠った。次の日、朝目覚めてリビングに向かうと、床に一本の長い髪の毛が落ちているのに気づいた。

俺は男だし、髪も短い。もちろん、こんな長い髪が自分のものでないのはすぐにわかった。誰かが部屋に入ったのかと不安になり、窓やドアを確認したが、どこも施錠されている。鍵は自分しか持っていないし、泥棒が入った形跡もない。結局、宅配便か何かくっついていたんだろうと自分に言い聞かせ、深く考えずにその日は出勤した。

しかし、次の日も同じように床に髪の毛が落ちていた。しかも、今度は風呂場の排水溝にも絡まっている。掃除はしていたし、自分の髪ではない。気味が悪いと思いながらも、その時は排水溝の掃除が甘かったのかもしれないと無理やり納得させた。

だが、その後も状況は変わらなかった。リビング、キッチン、洗面台――部屋のあちこちで、知らない長い髪の毛が見つかるようになった。しかも、その髪の毛は毎回1本か2本、絶妙に目立つ場所にある。まるで「ここにいるよ」と主張しているかのように、俺の視界に入ってくるのだ。

気味が悪くなり、友人に相談したが、「気のせいだろう」「掃除が甘いんじゃない?」と笑われるだけだった。確かに、古い部屋でもないし、何かが起きる理由はない。だが、どう考えても不自然だ。

ある日、決定的な出来事が起こった。

その日は休日で、部屋の大掃除をすることにした。徹底的に掃除をして、髪の毛が残っていないか確認しながら片付けた。夕方、掃除が終わり、安心してソファに腰を下ろした瞬間、何かが背中に触れた。

反射的に手を伸ばしてみると、そこにはまたもや長い髪の毛が絡みついていた。ついさっきまで念入りに掃除したはずなのに、なぜここに? 怖くなり、すぐに髪の毛を捨てたが、全身に鳥肌が立ち、冷や汗が滲んだ。

さらにその夜、眠っていると何かが顔に触れる感覚で目が覚めた。慌てて照明をつけると、枕の上に数本の髪の毛が散らばっていた。もう限界だった。何かがおかしい、この部屋には俺以外の「誰か」がいるのではないかと思うようになった。

次の日、大家に相談し、部屋の過去を確認してもらった。しかし、この部屋で事故があったとか、心霊的な噂があるという話は一切なかった。ただ、少し前に住んでいた女性が、急に引っ越して行ったという話を聞いた。理由はわからないが、その時点で俺はこの部屋に居続けるべきではないと直感した。

結局、引っ越しを決めたが、引っ越しの準備をしている最中にも、髪の毛は変わらず現れ続けた。段ボールを詰めるたびに、床や棚に髪が絡みついているのだ。まるで俺がこの部屋を離れるのを拒んでいるかのように、執拗に髪が絡みついてくる感覚がした。

新しい部屋に移ってからは、奇妙な現象は一切なくなったが、未だに長い髪の毛を見かけると不安になることがある。あの部屋には、一体何がいたのだろうか。もしかしたら、その髪の毛は前に住んでいた女性のものではなく、もっと別の「何か」のものだったのかもしれない。

俺はあの部屋のことを思い出さないようにしているが、時々夢の中で、長い髪が伸びてくる悪夢を見ることがある。あの部屋に住み続けていたら、俺もその髪に取り込まれていたのかもしれない。

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