怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

北海道の一本道に現れた髪の長い女性 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編

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それは、私が北海道を一人でドライブ旅行していたときのことだった。広大な自然を満喫しながら、目的地までの長い一本道を走っていた。真っ直ぐに伸びる道路は左右に広がる森や草原を貫いており、見渡す限り人の気配はない。道幅も広く、交通量はほとんどないため、車を走らせるには最適な環境だった。

午後も遅くなり、空は徐々に茜色に染まり始めていた。まだしばらく目的地までは時間がかかりそうだったが、北海道の広大な景色に心が癒され、疲れを感じることもなかった。だが、その穏やかな気持ちは、ある一瞬で不安と恐怖へと変わっていった。

夕陽が沈みかけた頃、前方に人影が見えた。最初は、こんな場所に人がいることが不思議だった。周囲には人家もなく、観光地からも離れている場所だ。車を走らせていると、その人影が徐々に近づいてきた。

やがて、その人影の正体が見えてきた。それは、白いワンピースを着た女性だった。彼女は道の真ん中ではなく、道端をゆっくりと歩いている。黒髪が風に揺れ、背中まで伸びた長い髪が印象的だった。私は少し不安を覚えながらも、車を徐行させ、彼女を追い越そうとした。

ところが、近づくにつれて、どうも様子がおかしいことに気づいた。普通、人が歩いているなら、こちらの車に気づいて振り向くはずだが、その女性は全くこちらを気にする素振りがない。顔は見えないが、うつむいたまま淡々と歩き続けている。さらに、服装が異様に古めかしく、どこか現代のものではないように感じた。

「こんな場所で、こんな時間に一人で何をしているんだ…?」

そう思いながらも、私は少し速度を上げて追い越そうとした。女性との距離が縮まり、横を通り過ぎる瞬間、ちらりと顔を確認しようとしたが、その時、不意に彼女が顔を上げた。

ゾッとした。

その顔には、何もなかった。目も鼻も口もなく、まるで無表情の仮面をかぶっているような、のっぺりとした白い肌だけがそこにあった。瞬間的に全身に鳥肌が立ち、恐怖で心臓が凍りつく感覚に襲われた。

「ありえない、これはおかしい!」

私はパニックになり、アクセルを強く踏み込んでその場を一気に離れた。心臓が激しく鼓動し、ハンドルを握る手が震えていた。バックミラーを見るのが怖かったが、どうしても確認せずにはいられなかった。ミラーに映る景色を見て、さらに恐怖が増した。

あの女性が、まだ遠くの道端を歩いていたのだ。私はかなりのスピードで走っているのに、彼女はまるで追いついてくるかのように、一定の距離を保って歩いている。その動きは、現実のものとは思えなかった。

次第に空は暗くなり、周囲の景色は影に覆われていった。私は、なんとかその道を抜けたい一心で車を走らせ続けた。だが、どうしてもあの女性の姿が視界から消えない。右手の森の中に見え隠れするかのように、彼女の姿が何度も現れては消える。次第にその動きが異常になり、まるでこちらを嘲笑うかのように姿を現す度に距離が縮まっていく。

ついには、バックミラーに彼女の顔が映り込んだ。白い、のっぺりとした顔がぼんやりと浮かび上がり、そこには無表情のままこちらを見つめる瞳が突然現れたかのようだった。絶叫しそうになるのを必死にこらえ、目を逸らしてアクセルをさらに踏み込んだ。

「早くこの道を抜けたい…!」

そう祈るような気持ちで走り続けた。ようやく先の方に街の明かりが見えた時、あの女性の姿はスッと消えた。まるで最初からそこにはいなかったかのように、何も見えなくなったのだ。

街に近づくにつれ、心拍は次第に落ち着きを取り戻したが、あの恐怖は忘れられなかった。北海道の広大な自然の中には、人知を超えた「何か」が存在しているのかもしれない。理屈では説明できないが、あの女性が何者であったのかを考えるだけで、再び全身が震えてしまう。

それ以来、私は広大な一本道を一人で走ることを避けるようになった。美しい風景の中には、時折そんな異質な存在が紛れ込んでいるのだろう。あの夜の出来事が現実であったのか幻であったのかはわからないが、確かに私は「何か」を見た。それが人間でないことだけは、はっきりと確信している。

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