それは、私が夏休みを利用して北海道を一人でドライブ旅行していた時のことだった。北海道の雄大な自然を堪能しながら、観光地を巡りつつ、広がる空と果てしない大地を満喫していた。旅の終盤、私は次の目的地に向かうため、人気の少ない一本道を走っていた。周囲は見渡す限りの森林と、低い山々が連なる風景が広がり、街の灯りはどこにも見えない。
その道は、北海道特有の「一本道」がどこまでも続く、広大な直線道路だった。真夏の日差しがまだ強かったが、時間は夕方に差し掛かり、空はオレンジ色に染まりつつあった。車の窓を開け、涼しい風を感じながら、私は目的地に向けて走っていた。
しばらくすると、ふと気になることが起こり始めた。遠くの方に、人影が見えるのだ。あれだけ人気のない場所で、歩いている人がいるのはおかしいと感じたが、まだ距離があったため、見間違いだろうと気にしなかった。
車を走らせ続けるうちに、その人影がだんだんと近づいてきた。何かを抱えているようで、ゆっくりと道端を歩いているのが見えた。しかし、車がさらに近づいても、その人影の姿がはっきりと見えない。逆光のせいか、シルエットだけがぼんやりと浮かび上がり、顔や服装の細部が見えないのだ。
私は少し速度を落としながら、その人影の横を通り過ぎた。すると、奇妙なことに気づいた。その人物の姿勢や歩き方がどこか不自然で、まるで体が硬直しているかのようだった。抱えているものも、何か人間のような形をしているが、全く動いていない。
「気味が悪い…」
そう思い、アクセルを踏み込んでその場を急いで通り過ぎた。心の中で「この道を早く抜けたい」という焦りが膨らんでいたが、その気持ちはすぐに現実の恐怖へと変わった。
しばらく走った後、道は森の中へと続いていた。木々が道路の両脇を覆い、辺りは薄暗くなってきた。ここまで来ると、街灯も全くなく、ヘッドライトだけが頼りだ。私は、早く森を抜けて安全な場所に辿り着きたいと願いながら、車を進めた。
しかし、再び視界の先にあの人影が現れたのだ。さっき通り過ぎたはずの人物が、再び同じように道端を歩いている。距離的に、さっきの場所からここまで歩いてくるのは不可能なはずだ。背筋が冷たくなり、全身に鳥肌が立った。
「同じ人…なのか?」
恐怖を感じながらも、再び人影に近づくと、今度はその顔がうっすらと見えた。だが、それは「顔」と呼べるものではなかった。顔全体がぼやけており、まるで塗りつぶされたような、何もない空白が広がっているだけだった。さらに、抱えているものがよく見えるようになったが、それはやはり人間の形をしており、まるでぐったりとした子供のようだった。
私は恐怖に駆られ、無意識にアクセルを強く踏み込んでその場を離れようとした。しかし、バックミラーをちらりと見ると、その人影がこちらをじっと見つめているような感覚に襲われた。顔が見えないはずなのに、確実に視線を感じたのだ。
パニック状態に陥りながら、私は森の中の道を全速力で駆け抜けた。心臓はバクバクと鳴り、手のひらは汗でびっしょりだった。周囲の木々がどんどん後ろに流れていく中、ひたすら前だけを見て走り続けた。
ようやく森を抜けた時、遠くに民家の灯りが見えた。ほっとして速度を落とし、無事に人気のある場所に辿り着いた。車を停め、深呼吸を繰り返してようやく落ち着きを取り戻した。
だが、あの人影が一体何だったのか、今でも理解できない。距離的にありえない場所に現れたその存在は、ただの幻覚や見間違いでは済まされないように思えた。
あの広大な北海道の自然の中で、確かに私は「何か」を見た。それが何であれ、二度とあの道を通りたくはないと思った。あの夜の出来事が、夢であればどれだけ良かったか。しかし、あの時感じた冷たさと恐怖は、今でも鮮明に蘇る。
広大な自然の中には、人間の理屈では理解できない「何か」が存在しているのかもしれない。北海道の美しい風景の裏には、時折そんな異質な存在が潜んでいるのだろう。そのことを、あの夜の体験で痛感した。
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