ある日の夜、私はオフィスで一人残業をしていた。外はすっかり暗く、フロアには私一人だけ。普段なら定時で帰るのだが、その日はどうしても終わらせなければならない仕事があり、仕方なく残っていた。
深夜を過ぎ、ようやく作業に一区切りがついたとき、ふと違和感を覚えた。デスクに座りながら、ふと床に目をやると、私の影がないことに気づいたのだ。いつもなら、デスクライトや蛍光灯の明かりでしっかりと自分の影が映っているはずなのに、そこには何もない。
「おかしいな…」
そう思って、立ち上がり、自分の手を壁にかざしてみた。しかし、壁にも影は映らない。まるで、光が自分を通り抜けているかのような感覚だった。最初は、ただの目の錯覚かと思い、部屋の明かりを消したりつけたりしてみたが、何度試しても影は戻らなかった。
不安になり、部屋の隅にある鏡を見てみると、鏡には確かに自分の姿が映っていたが、影だけがどこにも存在していなかった。胸の奥にじわじわと冷たい恐怖が広がり、何が起きているのか理解できずに混乱した。
次に、窓の外を見てみると、そこでさらに信じられない光景が広がっていた。いつもなら見慣れたオフィスビルや夜景が広がっているはずの窓の外に、全く違う景色が映っていたのだ。
窓の向こうには、灰色の曇り空と、見たこともない無機質な建物が広がっていた。ビル群はぼんやりとした光に包まれており、どこか異質な雰囲気を漂わせている。遠くには、異様に歪んだ塔のような建物がそびえ立っており、全体的にどんよりとした雰囲気が漂っていた。
「これは一体…?」
まるで自分が別の世界に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥り、心臓が激しく鼓動し始めた。外の景色がこんなにも変わってしまったということは、ここはもう自分の知っている世界ではないのかもしれないという不安が押し寄せた。
私は冷静さを取り戻そうとし、オフィス内を調べ始めることにした。まずは周りのデスクを見て回ったが、全てが普段通りの配置だった。だが、何かが微妙に違う。デスクの上には誰も使わないような古びた書類や、見覚えのない電話機が置かれていた。
オフィスの隅にある棚も確認したが、そこにはまるで長年誰も触れていないかのような埃が積もっていた。棚に並んでいるファイルには、見慣れない言語で書かれた文字が並んでおり、その意味は全く理解できなかった。
次に、廊下に出てみた。普段ならば他のフロアにも人がいるはずだが、廊下は不気味なほど静まり返っていた。足音一つ響かず、ただ冷たい空気が流れているだけだった。廊下の先にある非常階段へ向かうと、階段の壁にはかすれた黒いシミが広がり、どこか不穏な雰囲気を醸し出していた。
「これは夢なのか、それとも現実なのか?」
私は恐る恐る非常階段を降りてみたが、階段を下りるたびに周りの景色がどんどん歪んでいくような感覚に陥った。階段を何段も下りても、一向に1階に辿り着かない。まるで無限ループに囚われているかのようだった。
再び元のフロアに戻ると、オフィス内の蛍光灯が微かにチカチカと点滅していた。その光の下で、再び自分の影がないことに気づき、絶望感が胸を締め付けた。
「どうすれば元に戻れるんだ…」
混乱と恐怖が頂点に達したそのとき、窓の外に変化が訪れた。異次元のような景色がぼんやりと揺らぎ始め、次第に元の見慣れたビル街の夜景へと戻っていった。何度か瞬きを繰り返すうちに、外の風景は完全に元に戻り、いつもの景色が広がっていた。
急いでデスクライトの下に戻ると、ようやく自分の影が復活していた。影が再び自分と重なり、安堵感が広がった。
「一体、何が起きていたんだ…?」
私は急いで荷物をまとめ、オフィスを後にした。エレベーターに乗り、1階に降りると、いつも通りのビルのロビーが広がっていた。外に出ると、そこにはいつもの自分の世界が戻っていた。
あの異質な世界は、現実だったのか、ただの幻覚だったのか。今でもその答えはわからない。ただ、あの夜以来、オフィスで深夜残業をすることだけは避けるようにしている。あの奇妙な体験が、再び自分を別の世界へ引きずり込むのではないかという恐怖が、心のどこかに残り続けているからだ。
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