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深夜残業で見た『偽りの同僚』 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その夜、私は残業をしていた。締め切りの迫るプロジェクトがあり、どうしても終わらせなければならなかった。時計を見ると、すでに深夜0時を過ぎている。オフィスには私以外にも数名の同僚が残っており、それぞれが黙々と仕事をしていた。

オフィスは広いフロアで、私のデスクは中央付近にあった。周りには同僚たちのデスクが点在しており、遠くには会議室や休憩室がある。普段は賑やかなオフィスだが、この時間帯になると、不気味なほど静まり返っている。

「もうひと踏ん張り…」

そう自分に言い聞かせ、パソコンに向かって作業を続けた。深夜の静けさの中、キーボードを叩く音だけが響いている。時折、遠くの方で同僚たちが小声で話しているのが聞こえたが、内容までは聞き取れなかった。

しばらくして、少し息抜きをしようと席を立ち、休憩室へ向かうことにした。オフィスを見渡すと、向こうの島(デスクエリア)に同僚が見える。二人ともパソコンに向かって集中している様子だったので、声をかけずにそのまま休憩室へ向かった。

コーヒーを淹れながら、ふと「これだけ遅くまで残業しているのに、彼らも本当に大変だな」と思った。その時はまだ、何もおかしなことに気づいていなかった。

休憩室で少しリラックスしてからデスクに戻ろうとしたが、戻る途中で妙な違和感を覚えた。オフィス内がいつも以上に静まり返っている。先ほどまで聞こえていた同僚たちの小声が、ぴたりと止んでいるのだ。

不安に駆られながらも、自分のデスクに戻って再び作業を始めた。しばらくすると、遠くからまた小さな話し声が聞こえてきた。何となく耳を傾けてみると、その会話がどこか不自然に感じた。まるで、人間が話しているのではなく、機械が作り出したような、感情のない平坦な声だった。

「何かおかしい…」

嫌な予感がして、声のする方向に目を向けると、遠くのデスクにいるはずの同僚たちがこちらをじっと見つめているのが見えた。彼らの姿は、普段と何も変わらないはずだったが、その表情には明らかに生命感がなかった。

目は焦点が合わず、どこかガラス玉のように無機質で、口元は微かに引きつっている。まるでロボットが笑顔を模倣しようとして失敗したかのような、不自然な笑みを浮かべていた。背筋に冷たい汗が流れ、思わず目を逸らしたが、どうしても視線を戻してしまう。

彼らは、同じ姿勢のままこちらを見つめ続けている。そして、次の瞬間、その二人が同時に口を開いた。しかし、出てきた言葉は理解できない。言葉のようでいて、全く意味を成さない音の羅列だった。まるで、日本語を知っているが使い方を理解していない何者かが、無理やり会話を模倣しているかのようだった。

「何かが違う…」

恐怖が一気に押し寄せ、私はデスクから立ち上がり、フロアの別の場所に移動しようとした。その間も、彼らの視線は私を追い続けていた。視線が追いかけてくるという感覚は、まるで影に取り憑かれたかのような不気味さだった。

不安を振り払うように、会議室のドアを開けた。しかし、中には誰もおらず、普段と変わらない空っぽの空間が広がっているだけだった。背後に再び視線を感じて振り返ると、今度は二人の同僚が無言でこちらに向かって歩いてくる。

彼らの歩き方は、どこかぎこちなく、リズムが狂っている。まるで壊れかけた人形が動いているような、不自然な動きだ。息が詰まるような緊張感の中、私は後ずさりし、出口に向かって逃げようとした。

「早く、ここを出ないと…」

頭の中はパニックで、必死に出口を探した。ふとした瞬間、オフィスの照明が一瞬だけチカチカと点滅した。影が揺らぎ、異常な空気がさらに濃くなる。私は慌ててオフィスの出口に向かい、ドアを開け放って廊下に飛び出した。

廊下に出ると、背後から聞こえていた不気味な声や足音がピタリと止んだ。振り返る勇気はなかったが、遠くのフロアをぼんやりと見ると、同僚たちは何事もなかったかのようにデスクに戻っていた。

「これは…何なんだ…?」

全身が震え、冷や汗が止まらなかった。廊下を早足で歩き、エレベーターに乗り込んでボタンを押すと、ようやく落ち着きを取り戻し始めた。1階に降り、外に出ると、冷たい夜風が肌に心地よく感じられた。

翌日、出社したとき、昨夜のことが夢だったのではないかと思った。しかし、オフィスに入ると、昨日見たあの「同僚たち」が普通に仕事をしている姿が目に入った。彼らは普段通りに見えたが、私は彼らの顔を直視できなかった。心の奥底で、またあの無機質な視線と表情を思い出し、恐怖が蘇ったからだ。

あの夜、私が見たものは一体何だったのか。彼らは本当に同僚だったのか、それとも何かが彼らに成り代わっていたのか。答えは分からないままだが、あれ以来、私は深夜のオフィスに一人で残ることは避けるようにしている。あの静寂の中で、再び「偽りの同僚」が現れるのではないかと、今でも不安に駆られているからだ。

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