佐藤大輔(さとう だいすけ)は、祖父が亡くなった後、古い実家の整理を手伝うことになった。祖父の家は古くからの伝統的な日本家屋で、幼い頃はよく遊びに来ていた場所だったが、最近ではあまり訪れていなかった。
祖父の遺品整理をする中で、大輔はひときわ古びたアルバムを見つけた。表紙はひび割れ、色あせていて、明らかに何十年も前のものだった。興味を惹かれた大輔は、そのアルバムを開いてみた。
最初の数ページには、祖父が若かった頃の写真が並んでいた。懐かしい風景や親戚たちの顔が映っており、大輔は微笑ましくそれらを眺めていた。しかし、アルバムの中ほどに差し掛かったところで、彼の手が止まった。
そこには見覚えのない家族の写真があった。古い白黒写真の中には、父親、母親、そして二人の子供が写っている。しかし、その家族にはどこか不自然な雰囲気が漂っていた。全員が揃って不気味な笑みを浮かべており、その目はカメラをじっと見つめている。表情は笑っているはずなのに、まるで笑顔が無理やり引き伸ばされたかのようで、ぞっとするような違和感があった。
「この家族、誰だ…?」
大輔は、家族の中にこのような人たちがいた覚えはなかった。さらに奇妙なことに、その写真の背景には、今まさに自分がいる祖父の家とそっくりな家屋が映っていた。だが、何度見返しても、大輔はこの家族を思い出せない。
その日、大輔は気味の悪さを感じながらも、アルバムを閉じて作業に戻った。しかし、それ以来、彼の家族に奇妙な異変が起こり始めた。
まず、家に帰ると、妹が突然泣き出した。理由を尋ねても、「何かがいる…」と怯えるばかりで、はっきりとした説明はできない。次に、母が夜中に何度も起きるようになり、「誰かが部屋の外から覗いている気がする」と訴えた。
そして大輔自身も、悪夢を見るようになった。夢の中で彼は、例の写真の中の家族と同じ部屋に座らされ、彼らの笑顔に囲まれている。その家族は、笑顔のまま彼に何かを話しかけているが、その内容は理解できない。ただ、彼らの笑い声がどんどん大きくなり、やがて狂気じみた笑い声に変わる。夢から目覚めると、いつも全身が冷たい汗でびっしょりになっていた。
異常はこれだけでは終わらなかった。ある日、リビングで母が「この写真、いつ撮ったの?」と、不意に大輔に問いかけてきた。見ると、母の手には、あの見覚えのない家族写真が握られていた。大輔は驚き、すぐに「それは祖父のアルバムにあったものだ」と説明したが、母は「そんなはずはない、これはうちの家族写真だ」と信じようとしない。
母が言うには、その写真に写っている家族がまるで自分たちであるかのように見えるというのだ。しかし、大輔が改めてその写真を確認すると、やはり見知らぬ家族が写っている。どうして母が自分たちだと言うのか理解できなかったが、次第に大輔も写真を見続けるうちに、写っている人物たちが自分たち家族に少しずつ似てきているように感じ始めた。
不安に駆られた大輔は、家族全員にその写真を見せた。しかし、皆が口を揃えて言うのは「これは私たちだ」という言葉だった。そして、写真を見るたびに、彼らの表情がどこか歪んでいく。まるで、あの写真の中の家族と同じ不気味な笑顔が、現実の家族にも伝染していくかのようだった。
さらに奇妙なことに、その写真を手にするたびに、実際の家族の行動が次第におかしくなっていった。夜中にリビングで家族全員が無言で集まり、ただじっと壁を見つめていることが増えた。問いかけても返事はなく、ただ無表情で微動だにしない。だが、彼らがふと振り返ると、あの歪んだ笑顔が浮かんでいた。
ある日、大輔はとうとう耐えきれず、その写真を燃やそうと決意した。家族には何も告げずに、深夜にこっそりと写真を持ち出し、庭で火を起こした。そして、燃え盛る炎の中に写真を投げ入れた。
だが、その瞬間、激しい耳鳴りとともに頭痛が襲い、視界が歪んだ。まるで周囲の景色がぐにゃりと曲がるような感覚に陥り、彼はその場で倒れ込んだ。
気がつくと、彼は家の中にいた。しかし、何かが変だ。家の中は見覚えがあるはずなのに、どこか異様な雰囲気が漂っている。そして、リビングには家族全員が集まっていたが、彼らは全員、あの不気味な笑顔を浮かべていた。
「おかえりなさい、大輔」と、彼らは口を揃えて言った。
その瞬間、大輔は理解した。あの写真の中の家族は、彼ら自身だったのだ。そして、写真に引き込まれたのは自分だけではなく、家族全員がその歪んだ世界に囚われてしまったのだ。
それ以来、大輔たち家族は、誰もが不自然な笑顔を浮かべながら日常を過ごしている。彼らはもう普通の家族ではなくなった。ただ、その笑顔の裏には、決して解けない恐怖が潜んでいる。
古いアルバムの中には、触れてはいけない秘密が眠っているかもしれません。その一枚の写真が、あなたと家族の日常を永遠に変えてしまうかもしれないのです。
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