田中真一(たなか しんいち)は、ここ最近、毎晩同じ悪夢にうなされ続けていた。夢の中で彼は、いつも暗い部屋に閉じ込められている。その部屋には窓がなく、唯一の扉は固く閉ざされている。部屋の中にはかすかに冷たい空気が漂い、かび臭い匂いが充満している。床は薄暗く、どこか湿った感触がある。
夢の中で真一は、必死にその扉を開けようとするが、鍵がかかっているのか、全く動かない。すると、背後から「コツ…コツ…」という規則正しい足音が聞こえてくる。足音は徐々に近づいてきて、やがて彼のすぐ後ろまで迫ってくる。だが、振り向いてもそこには誰もいない。ただ、暗闇が広がるだけだ。
恐怖に駆られた真一は、扉を叩き、叫び声を上げるが、誰も助けに来ない。足音だけが背後で続き、やがてそれが耳元で囁くような不気味な声に変わる。「逃げられない…逃げられないよ…」
その声は低く、冷たく、彼の心臓を強く締め付ける。真一は絶望感に包まれ、目が覚める。汗だくで目を開けると、寝室の天井が見えるが、心臓の鼓動は激しく脈打ち、全身が震えている。何度も「これはただの夢だ」と自分に言い聞かせるが、そのリアルさに彼は恐怖から逃れられない。
真一はその悪夢が気になり、睡眠時間がどんどん短くなっていった。夢を見るたびに、現実と夢の境界が曖昧になっていく。夜になるのが怖くなり、眠ること自体が苦痛に変わっていった。だが、どんなに抵抗しても、眠りに落ちるとまた同じ夢が訪れる。
ある晩、真一は意を決して夢の中で立ち向かう決心をした。いつもの暗い部屋に閉じ込められ、扉が開かないことを確認した後、彼は深呼吸をして背後を見つめた。そこには、いつもと同じ暗闇が広がっている。だが、その中に微かに何かが揺らめいているのが見えた。まるで、黒い霧のような影が動いている。
「お前は誰なんだ! なぜ俺を追いかけるんだ!」と、真一は必死に叫んだ。だが、返事はない。ただ、足音が再び「コツ…コツ…」と響き渡り、影は一層濃くなっていく。その瞬間、彼は気づいた。この影は、ただの夢ではなく、彼自身の心の奥底に眠る何か――忘れ去られた記憶や恐怖が具現化したものだということを。
影は少しずつ形を成し、やがて人の姿を帯び始めた。長い髪、痩せこけた体、無数の目が彼をじっと見つめている。その視線はまるで彼を責めるかのように鋭く、目が合った瞬間、真一の頭に激しい痛みが走った。過去の記憶がフラッシュバックのように一気に蘇る。子供の頃の孤独感、見捨てられた恐怖、そして何かを忘れているという強烈な罪悪感。
夢から覚めた後、真一は鏡の前で自分の顔を見た。そこには疲れ果てた男の顔が映っている。だが、何かが違う。目の奥に、あの夢の中で見た影のような黒い何かが宿っているように感じた。
悪夢はその後も続いた。ある日、ついに真一は限界を迎え、精神科を訪れた。医師は彼にストレスやトラウマが原因だろうと言い、睡眠薬を処方した。しかし、薬を飲んでも悪夢は消えないどころか、ますます強烈になっていった。夢の中での影の存在感は増し、彼の生活そのものに影響を及ぼし始めた。
次第に現実世界でも、真一は足音が聞こえるようになった。夜中、家の廊下から「コツ…コツ…」という音が響き、彼の部屋の扉の前で止まる。その音が聞こえるたびに、真一は布団の中で震えながら朝を迎えた。もはや夢と現実の区別がつかなくなり、彼は次第に狂気の淵に追い込まれていった。
ある夜、彼はとうとう決断した。夢の中で影と完全に向き合い、終わらせることを。夢に入ると、いつもの暗い部屋に閉じ込められている。背後にはすでに影が立っている。今回はいつもよりも明確に、その姿が見えた。影は真一に囁くように語りかけた。「お前が逃げられる場所なんてないんだよ。これはお前自身の闇だ。」
真一は全力で逃げようとしたが、足が動かない。影はゆっくりと近づき、その冷たい手が彼の肩に触れた瞬間、彼は激しい恐怖とともに現実へと引き戻された。しかし、その感覚は現実のものだった。目を覚ますと、部屋の隅に黒い影が立っているのが見えた。逃げようとしても身体は動かず、影はゆっくりと彼に歩み寄ってくる。
その日を境に、真一は誰とも連絡が取れなくなった。家族や友人が彼の家を訪れたが、家の中は空っぽだった。唯一見つかったのは、真一が寝ていたベッドと、壁に書かれた「逃げられない…」という文字だけだった。
彼が今もどこかで、あの悪夢の中に囚われ続けているのか、それとも影に取り込まれてしまったのかは、誰にも分からない。
終わらない悪夢――それが現実と交錯する瞬間、あなたも逃げ場を失うかもしれません。
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