怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

屋根裏部屋の時間の歪み 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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佐々木大輔は、妻と一人娘の美咲と共に、築数十年の古い一軒家に引っ越してきました。家は木造で、どこか懐かしい雰囲気を醸し出しており、大輔はこの家で家族と穏やかに暮らせることを楽しみにしていました。特に、家の2階にある小さな屋根裏部屋は、静かで落ち着ける空間で、大輔は趣味の読書や物思いにふけるために、よくこの部屋を訪れていました。

屋根裏部屋は天井が低く、狭い空間でしたが、大輔にとっては居心地の良い隠れ家のようなものでした。そこには古い木製の椅子と机、そして何年も前から置かれているであろう古書が並ぶ小さな本棚がありました。外の光が小さな窓から差し込み、独特の静寂が広がるこの部屋は、大輔にとって特別な場所になっていきました。

引っ越してから数ヶ月が経ち、ある日、大輔は休みの日に屋根裏部屋で過ごすことにしました。彼は古い本を手に取り、読みふけるうちに、時間の感覚をすっかり忘れてしまいました。部屋は静かで、時折、床板が軋む音や、風が窓を揺らす音が聞こえるだけです。

その日、大輔は昼過ぎに部屋に入ったはずでしたが、ふと我に返ると、外はすっかり夕暮れになっていました。大輔は驚いて時計を見ると、思ったよりも時間が過ぎていることに気づきました。「ずいぶん長いこと本を読んでいたんだな」と思いながら、階下に降りました。

しかし、リビングに戻った大輔を待っていたのは、妻と娘の不思議そうな表情でした。「どこにいたの?もう夕食の時間よ」と妻が言いました。大輔はそれを聞いてさらに驚きました。自分ではせいぜい数時間しか屋根裏にいなかったつもりでしたが、外の世界では半日近くが経過していたのです。

その日は特に気にせず過ごしましたが、それからというもの、大輔が屋根裏部屋に入るたびに、外の時間と自分の感覚が合わなくなることが頻繁に起こり始めました。例えば、ほんの1時間ほど過ごしたつもりが、外に出てみると数時間が過ぎている。または、逆に、何時間も読書に没頭していたと思っても、外に出ると、ほとんど時間が経っていなかったこともありました。

最初は不思議に思っていた大輔でしたが、次第にその現象に慣れていきました。屋根裏部屋では時間の流れが違うのかもしれない、と半ば冗談交じりに思うようになり、むしろその静かな空間をもっと楽しむようになりました。

しかし、ある日、その時間のズレが家族に大きな影響を与える出来事が起こりました。

その日は大輔の休日で、彼は午前中から屋根裏部屋にこもっていました。古い日記帳を見つけ、その中に書かれた昔の家族の暮らしぶりに夢中になっていました。時間の感覚を忘れ、日記の世界に没頭していると、ふと床下から美咲の声が聞こえてきました。

「パパ、お昼ご飯の時間だよ!」

大輔は声に反応し、屋根裏部屋から降りようとしましたが、その瞬間、部屋の空気が急に変わったことに気づきました。窓の外を見ると、いつの間にか夜になっていたのです。彼は急いで時計を見ましたが、針は昼を指していました。何かが明らかにおかしいと感じた大輔は、慌てて階下に降りました。

家の中に戻ると、リビングは真っ暗で、電気もついていませんでした。「おかしいな…」と呟きながら、大輔はリビングの灯りをつけました。その瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、泣きながら電話をしている妻の姿でした。

「どうしたんだ!」と大輔が叫ぶと、妻は驚いた顔で彼を見つめました。「大輔、どこに行ってたの?もう何時間も探してたのよ!」と、涙を浮かべながら言いました。彼女の話では、大輔が屋根裏にこもってから、外の時間では丸一日が経過していたというのです。

「そんなはずはない…」大輔は困惑しながらも、時計を確認しましたが、どれも現実の時間を示していました。彼が屋根裏で過ごしていたと思っていた時間は、実際にはほんの数時間程度だったのです。

その後、大輔は屋根裏部屋に入ることを控えるようになりました。しかし、頭の片隅には常にあの「時間の歪み」の感覚が残っていました。家族との時間が狂ってしまうことへの恐怖が、彼を屋根裏から遠ざけたのです。

しかし、ある晩、大輔は夢の中で再び屋根裏部屋にいる自分を見ました。部屋の中は以前と変わらず、静かな空間が広がっていましたが、何かが違っていました。時間の感覚がまるで砂時計のようにひっくり返り、目の前で流れ去っていくのを感じたのです。

目が覚めた大輔は、その夢がただの空想ではないと直感しました。屋根裏部屋は、ただの物置や隠れ家ではなく、何か別の力が働いている場所なのだと。時間が歪み、現実の流れとは異なる次元が存在しているのかもしれない。その考えは彼をさらに恐怖で包み込みました。

大輔は家族のためにも、その部屋を封印することを決意しました。彼は屋根裏部屋の扉を固く閉ざし、鍵をかけました。その後も時折、屋根裏から時計の針が狂うような感覚に襲われることがありましたが、大輔は決してその扉を開けることはありませんでした。

家族は次第に平穏な日々を取り戻し、大輔も時間のズレに怯えることなく過ごすことができるようになりました。しかし、彼は時折、家の中でふとした瞬間に「時間」が歪む感覚を覚えることがありました。それは、あの屋根裏部屋が今もなお、別の時間軸を抱えている証拠なのかもしれません。



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