怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

息子が話す見えない友だち 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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山本彩子は、5歳の息子、亮太と夫と共に平穏な日々を過ごしていました。夫は日中仕事で不在がちでしたが、彩子は家で亮太の世話をしながら、彼との時間を大切にしていました。亮太は明るく社交的な子で、近所の子供たちともすぐに仲良くなり、毎日楽しそうに遊んでいました。

しかし、ある日、亮太が家に戻ってきたとき、彩子は彼が何か不思議なことを話し始めたことに気づきました。「ママ、今日は新しい友だちができたんだよ!」と、亮太は無邪気な笑顔で言いました。彩子はその話に驚きませんでしたが、次の亮太の言葉に少し戸惑いました。「でも、その子は外に出られないんだ。いつも家の中で遊んでるの。」

最初はただの想像上の友だちだと思っていました。小さな子供が空想の友だち、イマジナリーフレンドと遊ぶのはよくあることだと聞いていたからです。しかし、亮太がその友だちについて話すたびに、彩子の胸には不安が募っていきました。亮太はその子を「カズくん」と呼び、彼がどんなことをしているのか、何を言っているのかを詳しく話してくれるのです。まるで本当にそこに誰かがいるかのように。

亮太は毎日、「カズくん」が家の中でどこにいるのかを教えてくれました。リビングの隅や廊下の角、時には彩子が目を離した一瞬のうちに、「カズくん」と遊んでいると言うのです。亮太が遊んでいる様子を見ていると、確かに誰かと話し合っているかのようで、彩子はますます不安を感じるようになりました。

ある日、亮太が「カズくん」と一緒にかくれんぼをしていると言い出した時、彩子は不思議なことに気づきました。亮太はいつも隠れる場所をカズくんが教えてくれると言い、その通りに隠れると彩子は亮太を見つけるのが非常に難しいのです。彼の隠れる場所はまるで、誰かが指示を出しているかのように絶妙で、どれも普段は亮太が思いつかないような場所でした。

この「カズくん」が本当にただの空想上の友だちなのか、それとも何かもっと不気味な存在なのか、彩子は疑いを持ち始めました。そこで、彩子は亮太に「カズくん」についてもっと教えてほしいと頼みました。亮太は快く応じ、「カズくん」は昔ここに住んでいた子供で、今は家の中で一人で遊んでいるのだと言いました。さらに、亮太は「カズくん」が寂しがっているから、亮太と遊ぶのがとても楽しいと話しました。

彩子はその話を聞いて、急に家が違う雰囲気に包まれたように感じました。普段は明るいリビングがどこか薄暗く感じ、家の中に漂う静寂がいつもより重たく思えたのです。彼女は心配になり、夫にその話をしましたが、夫は「ただの子供の空想だろう」と軽く流してしまいました。

しかし、彩子の不安は募るばかりでした。特に、亮太が夜中に「カズくん」と話しているのを見たとき、その不安は恐怖に変わりました。夜中、彩子が目を覚ますと、隣の部屋から亮太の声が聞こえてきました。彼は楽しそうに誰かと話しており、その相手は確かに「カズくん」でした。彩子は亮太の部屋に入ると、彼がベッドの上に座り、窓の方を見ながら笑っているのを目にしました。

「亮太、夜中だよ。もう寝ないと」と彩子が声をかけると、亮太は無邪気に「うん、でもカズくんが話したいって言うから」と答えました。彩子はゾッとし、亮太をベッドに戻すと、「カズくんはもう帰らないといけないよ。夜はお話ししない方がいいんじゃない?」と諭しました。亮太は少し不満げでしたが、母親の言うことを聞いて大人しく眠りにつきました。

翌朝、彩子は亮太に「カズくん」のことを尋ねましたが、亮太は少し悲しそうに「もうカズくんはどこかに行っちゃったみたい」と言いました。それ以来、「カズくん」の話はぱったりと聞かなくなりました。しかし、家の中にはまだどこか不穏な空気が漂っているように感じられました。

彩子は、何かが家の中に潜んでいたのではないかと考えましたが、それが何だったのかは結局わからずじまいでした。亮太はその後も元気に過ごしましたが、時折、家の中で一人きりになると、どこか寂しそうな表情を見せることがありました。まるで「カズくん」との別れが、亮太に何かを残したかのように。

結局、彩子は「カズくん」が本当に存在したのか、それともただの空想だったのかを確かめることはできませんでした。しかし、亮太の話す内容や家の中で感じた異様な雰囲気から、何か不思議な出来事が起こっていたことは確かだと感じていました。

そして、彩子は今でも時々、亮太が「カズくん」との別れを惜しむかのように、空っぽの部屋をじっと見つめる姿を思い出すのです。



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