小学6年生の時、私たちのクラスでは「こっくりさん」が一時的に流行っていた。オカルトや怖い話に興味を持つ年頃だった私たちは、学校の階段の踊り場や放課後の教室で、こっくりさんを試していた。友達と一緒にやると、まるで本当に何かがそこにいるかのような感覚に包まれ、ドキドキと恐怖が入り混じった感情を楽しんでいた。
ある日、私とユウタ、アヤカ、ケンタの4人は、放課後の教室に集まってこっくりさんをやることにした。教室は夕方の薄暗い光に包まれ、窓の外の風が木々を揺らす音が微かに聞こえるだけだった。
「本当にやるの?」とアヤカが不安そうに聞いたが、ユウタが「大丈夫、ただの遊びだよ」と笑いながら答えた。私たちは10円玉を真ん中に置き、紙には「はい」「いいえ」「鳥居」と五十音が書かれていた。全員が10円玉に指を置き、静かにこっくりさんを始めた。
「こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいますか?」
私たちは声を揃えて唱え、教室の中は静まり返った。最初は何も起こらなかったが、しばらくすると10円玉がゆっくりと動き始めた。全員が驚きと恐怖で息を呑んだ。
「こっくりさん、ここにいるんですか?」とケンタが尋ねると、10円玉は「はい」に動いた。私たちはお互いに顔を見合わせ、何かがおかしいと感じながらも、好奇心に勝てず、質問を続けた。
「こっくりさん、私たちに何か言いたいことがありますか?」
その質問に対して、10円玉は再び動き始めた。今度はゆっくりとした動きで、まるで何かを伝えたがっているようだった。私たちはその動きを見つめ、次に示された文字に目を凝らした。
「さ」「け」「ぶ」「な」
「叫ぶな…?」とアヤカが呟いた。
意味がよく分からなかったが、その瞬間、教室のドアが急にバタンと閉まった。誰もが驚き、声を上げそうになったが、先ほどのメッセージを思い出して思わず口を閉じた。
「やめよう、もう終わらせよう」と私は提案した。皆が同意し、こっくりさんを終わらせるための言葉を唱えた。
「こっくりさん、こっくりさん、お帰りください。」
私たちは何度もそう唱え、10円玉が「鳥居」に戻るのを見届けた。しかし、10円玉を紙から取り上げた瞬間、私は何かが違うことに気づいた。
「これ…変だ」
私の手の中にある10円玉は、冷たく重く、まるで普通の硬貨とは異なる感触があった。よく見ると、その10円玉の表面が微妙に歪んでおり、光の加減で不気味な模様が浮かび上がるように見えた。
「なんか、これおかしくない?」とユウタが顔をしかめながら言った。私たちはその10円玉を見て、全員が不安を感じた。
「捨てようか…」とケンタが提案したが、私は何故かその10円玉を手放すことができなかった。まるで何かに引き寄せられているような感覚に襲われ、私は無意識のうちにそれをポケットにしまってしまった。
それから数日間、その10円玉は私のポケットにあり続けた。学校に行くときも、家にいるときも、その10円玉を持ち歩いていた。しかし、次第に奇妙なことが起こり始めた。
まず、夜中にふと目が覚めることが増えた。寝ていると、何かが私の周りで動いているような気配を感じるのだ。部屋の中は静かで何もないはずなのに、何故か落ち着かない。そして、必ずその時、ポケットの中に入れたままの10円玉が冷たく重く感じられた。
「おかしいな…」
ある日、学校でその10円玉を出してみると、表面に微かな亀裂が入っているのに気づいた。まるで何かが中から割れて出てこようとしているかのようだった。私はその光景にゾッとし、ようやくその10円玉を手放すことを決心した。
放課後、ユウタとケンタにそのことを話し、一緒にその10円玉を処分することにした。川の近くに行き、10円玉を投げ捨てると、私はほっとしたような気分になった。
「これで終わりだ」と思った。
しかし、翌日、学校に行くと、ポケットの中に同じ10円玉が戻っているのを感じた。私は驚きと恐怖で声を上げそうになったが、何故か口を閉ざした。ポケットから取り出してみると、それは確かに昨日捨てたはずの10円玉だった。歪んだ表面も、入った亀裂も、全てがそのままだった。
「ありえない…」
私は恐怖で震え、再び10円玉を捨てようとしたが、手が震えてできなかった。結局、その10円玉を再びポケットにしまい込み、学校に戻った。
それ以来、私はその10円玉を手放すことができなくなった。何度捨てても、いつの間にかポケットの中に戻ってきている。そして、その度に、10円玉の歪みが広がり、亀裂が大きくなっていくのを感じた。
私たちがこっくりさんで呼び出したものが何だったのか、今でも分からない。ただ一つ言えるのは、その存在がこの10円玉に何かを封印し、それが私を通して現実に現れようとしていることだ。
その後、私は二度とこっくりさんをすることはなかった。友達ともこの話をすることはなくなり、ただ一人でその恐怖と向き合うしかなかった。あの日の軽い気持ちが、私にとって永遠に消えない恐怖を残した。
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