私は、休日の午後になると、よく家の近所を散歩するのが習慣になっていた。住んでいる場所は、緑が多く、自然を感じられる静かな住宅街。夕方に差し掛かる頃には、涼しい風が心地よく、木々の間から差し込む夕日が美しい時間帯だ。この日も、特に何の目的もなく、ただ散歩を楽しんでいた。
いつものコースを歩いていると、ふと、普段は通らない小道に目が留まった。細くて、少し鬱蒼とした道だったが、夕暮れの光が柔らかく差し込んでおり、どこか魅力的に見えた。新しい発見があるかもしれないと思い、その小道に足を踏み入れた。
歩き始めてすぐに、その道がどんどん狭くなっていくのに気づいた。両側には高い木々が生い茂り、空が見えにくくなっていた。だが、その先に何があるのかが気になり、引き返す気にはならなかった。道はやがて、さらに細く曲がりくねり、薄暗くなるにつれて、周りの音がどんどん消えていくような気がした。
少し進んだところで、突然視界が開け、古い神社が現れた。私は驚きつつも、神社に近づいてみた。鳥居は苔むしており、敷地は草木に覆われていた。手入れが行き届いていないことから、長い間誰も訪れていないことが伺えた。
興味本位で境内に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌に触れるのを感じた。周囲は完全に静まり返り、私以外に誰もいないことが確信できた。鳥の声さえも聞こえず、まるで時間が止まっているような感覚に襲われた。
境内の奥には、祠がひっそりと佇んでいた。中を覗くと、小さな木彫りの神像が置かれていたが、何か異様な気配を感じた。その神像は、どこか不気味で、見つめられているような錯覚を覚えた。私はすぐにその場を離れようとしたが、足が勝手に祠の前で止まってしまった。
その瞬間、背後から何かの気配を感じた。振り返ると、道の方からゆっくりと人影が近づいてくるのが見えた。夕暮れで薄暗く、はっきりとは見えなかったが、影は一人の老人のように見えた。だが、その動きはどこかぎこちなく、異様に感じられた。
老人は無表情で、私に向かってまっすぐに歩いてくる。その目は私を捉えたまま、一度も瞬きしない。私はその視線に凍りつき、動けなくなった。彼が何を考えているのか、何をしようとしているのかが全く読めなかった。
彼が私に近づくにつれ、心臓が激しく脈打ち、全身が冷たくなるのを感じた。すると突然、彼がふと立ち止まり、顔を上げて神社の方を見た。その視線を追って私も顔を上げると、祠の中の神像が微かに動いたように見えた。風のせいか、あるいは錯覚かと思ったが、その瞬間、全身に電流が走ったかのような恐怖が襲いかかってきた。
私はその場から一歩も動けず、ただ目の前の光景に釘付けになっていた。老人は再び私に目を向け、今度は不気味な笑みを浮かべた。その笑顔には、どこか狂気を感じさせるものがあり、私の背筋は凍りついた。
次の瞬間、私は意識が遠のきそうになり、必死にその場を離れる決意をした。足を無理やり動かし、境内を飛び出し、小道を駆け戻った。木々の間を必死で走り抜け、なんとか元の道に戻ると、ようやく周囲の音が戻り、現実の世界に引き戻されたような感覚があった。
息を切らしながら振り返ると、そこにはもうあの小道も神社も見えなかった。ただの住宅街が広がっているだけだった。あれが一体何だったのか、私には理解できなかったが、二度とあの道を探そうとは思わなかった。
その日から、私は夕暮れ時に散歩に出るのを避けるようになった。あの老人や神社のことは、思い出すだけでも身震いがする。そして今でも、あの小道が本当に存在していたのか、あるいは私が異界に足を踏み入れてしまったのか、答えは出ていない。
ただ一つ言えるのは、あの夕暮れ時の散歩で、私は決して触れてはならない何かに出会ってしまったのだということだ。
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