ある日、健太はふとした違和感を覚えた。朝起きると、彼の周りの世界が微妙に変わっているような気がしたのだ。時計の針がいつもより遅れているように見え、彼が覚えていたはずのニュースが、異なる内容で報じられていた。しかし、彼が周囲にこの奇妙な感覚を話すと、誰も取り合わなかった。それどころか、友人たちは口々に「健太、お前は考えすぎだよ」と笑い飛ばすだけだった。
しかし、健太の違和感は日に日に強まっていった。町の風景も、微妙に異なる気がする。あの角にあったはずのカフェが、いつの間にか消えている。代わりに見覚えのない古びた店が現れていた。健太はその店に入ってみたが、店主は無言で彼を見つめるだけで、言葉を交わすことはなかった。
ある晩、健太は自宅の書斎で、自分が感じているこの違和感の正体を探ろうと決心した。彼は古い日記やアルバムを引っ張り出し、過去の記憶を確かめることにした。だが、そこに書かれている内容や写真は、彼が覚えているものとは微妙に異なっていた。健太は困惑し、自分が記憶喪失にでもなったのかと疑い始めた。
そんな彼が、ある日の夜、友人のタケルと居酒屋で飲んでいた時のことだ。健太はタケルに、この数日間の違和感について打ち明けた。タケルは健太の話を黙って聞いていたが、やがて静かにこう言った。
「健太、この数日間が、お前の記憶と違っているならば、世の中が間違っているか、お前が間違っているかのどちらかだ。ただな、世の中が間違っている場合でも、お前が『世の中が間違っている』と言っても、周りはお前が間違っていると思うだろうよ。なぜなら、世の中はその間違いを間違いだと認識してないからね。」
その言葉は、健太にとって衝撃的だった。タケルは冷静な表情で続けた。「もし、お前が本当に正しいと感じるなら、それを貫け。でも、それは簡単じゃない。お前一人が正しいと思っても、周りがそう思わなければ、お前が狂ってると思われる。それでも、お前は自分の直感を信じるのか?」
健太は言葉を失った。タケルの言葉が彼の心に深く突き刺さり、自分が直面している状況の難しさを改めて実感した。もし自分が正しいと確信しているのであれば、この世の中が間違っているのだと主張するのは、極めて孤独な戦いになるだろう。
健太はその夜、家に帰っても眠れなかった。タケルの言葉が何度も頭の中で反響し、彼を追い詰めた。しかし、彼は決心した。たとえどれほど孤立しても、真実を追い求めることをやめないと。たとえそれがどれだけ危険であっても、自分が信じる道を歩むしかないのだと。
その決意を胸に、健太は翌朝、再びあの古びた店を訪れた。彼はこの奇妙な感覚の正体を突き止めるために、すべてを賭ける覚悟だった。
健太が店の奥に進むと、古い書物が並んでいる棚が目に入った。その中に、一冊だけ異様な光を放つ本があった。その本を手に取ると、健太は理解した。世界は本当に「間違って」いたのだ。そして、その理由は、この本に記された古代の呪文によるものだった。本を開くと、健太は驚愕した。そこには、彼がこれまでに体験したすべてが予言されていたのだ。
健太は本を閉じ、店を後にした。彼は今、自分が追い求めた「真実」が、どれほど恐ろしいものであったかを悟った。しかし、もう後戻りはできない。彼は、この歪んだ世界を元に戻すための鍵を手にしていた。そして、誰もが忘れてしまった「正しい」世界を取り戻すために、健太は新たな旅に出ることを決意した。
彼は一人、夜の町を歩き出した。誰も知らない、たった一人の戦いが今、始まろうとしていた。
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