私は、車が運転できないこともあって、近くにある唯一の内科・小児科に通っている。車があれば選択肢も広がるのだが、私の住む地域では徒歩や自転車で行ける病院はここしかない。だが、この病院は、いつも薄暗く、重苦しい雰囲気が漂っている。内装も古びていて、まるで時間が止まったかのように感じられる。受付には無愛想な老婆の看護婦が座っており、診察室には笑顔を見せない老人の先生がいる。そんな雰囲気もあってか、患者はいつもまばらで、ほとんどが車を持たない老人か、私のように他に選択肢がない人たちばかりだ。
ある日、息子が急に高熱を出した。熱は高く、嘔吐もひどく、何も食べられず、飲み物さえも受け付けない状態だった。とても心配で、早く医者に診てもらいたいと思ったが、選択肢は一つしかない。私は息子を連れて、いつもの病院へと急いだ。
病院に着くと、まず驚いたのは、いつもと違って入り口が明るく感じられたことだった。普段は薄暗く、まるで異世界への入口のように感じていたのに、今日はなんだか暖かい光が差し込んでいるようだった。私は不思議に思いながらも、息子の具合が気になり、受付に向かった。
そこには、見慣れた老婆の看護婦ではなく、若くて笑顔が素敵な女性が座っていた。彼女は私たちを見ると、優しい笑顔で迎えてくれた。
「お子さん、大丈夫ですか？とても心配ですね。今日は私が一時的にこちらでお手伝いしています。早速診察室へご案内しますね。」
その明るい対応に、私は少し安心した。診察室へと案内されると、そこにはまた驚きが待っていた。いつもの老人の先生ではなく、若くて優しい目をした男性医師が座っていたのだ。彼は私たちを見ると、温かい笑顔で迎え入れた。
不思議なことに先生の雰囲気のせいか、診察に入っただけで少し息子の顔色が良くなった気がした。
「お子さんの具合が悪いと聞きました。すぐに診察しましょう。」
彼は丁寧に息子の症状を聞き取り、感染症の検査をしてくれた。そして、息子の体調を心から心配している様子で、すぐに点滴をしましょうと言った。
「点滴をすると、すぐに元気になりますよ。かわいそうですが、これでお子さんも楽になるはずです。」
息子は点滴を受けると、次第に顔色が良くなり、熱も少しずつ下がっていった。私はその変化にほっとし、息子の手を握りながら安心感に包まれた。
そして不思議なことに、あれだけ嘔吐して、水分も飲めなかった息子が点滴が終わるころには、「ママ、お腹空いた。何か食べたい」とやつれながらも元気のある声で言いはじめた。
そして、診察が終わると、先生は優しい笑顔で薬を処方してくれた。しかし、その薬を渡す際に、彼は少し変わったことを言った。
「この薬は、次に風邪をひいた時に使ってください。必ずその時に役立ちますから。」
「次に…ですか？今回ではなくて？」
私は少し疑問に思ったが、息子の体調が良くなったことに安堵していたため、深くは追及しなかった。薬は効いたことないものだったが、先生と看護師さんを見ると変なものではないと確信がもてた。そして、感謝の言葉を述べて病院を後にした。
それからしばらくして、息子が再び風邪をひいた時、その薬を試してみた。すると、驚くことに息子はすぐに元気を取り戻した。まるで奇跡の薬のように、風邪があっという間に治ったのだ。私はあの日の病院での出来事を思い出し、あの先生と看護婦さんに感謝の気持ちを抱いた。
しかし、ある日、近所の人たちと病院の話をする機会があった時、私は不思議なことを聞かされた。あの病院には、いつもの老婆の看護婦と老人の先生しかいないというのだ。私が出会った親切な看護婦さんと先生について、誰も知らなかった。
「あの時の看護婦さんと先生は一体誰だったのだろう？」
私はその疑問を抱きながら、あの日の出来事を振り返った。あの日、病院の雰囲気がまるで異世界に迷い込んだかのように感じられたこと、そして親切で温かい対応をしてくれたあの二人が、今ではまるで幻だったかのように思えることが、私の心に引っかかっていた。
それでも、私はまたあの親切な看護婦さんと先生に会いたいと思っている。異界のような不思議な体験だったが、あの二人が私たち親子にとって特別な存在だったことは確かだ。もしまた病院に行くことがあれば、あの日のような奇跡の再会があるのではないかと、どこかで期待している自分がいる。
日常の中で起きたこの不思議な出来事は、私の中で一生忘れることができない思い出となった。現実と異界の狭間で体験したあの瞬間が、私にとって何か特別な意味を持っているように感じられるのだ。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
マンガをお得に読むならマンガBANGブックス 40％ポイント還元中
1冊115円のDMMコミックレンタル！
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
ロリポップ！
ムームーサーバー
新作続々追加！オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
 |
 | ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |
