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血染めの掛け軸――夜毎現れる無念の影 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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私がその掛け軸を手に入れたのは、ある小さな骨董市でのことだった。休日の散歩中にふらりと立ち寄ったその市は、所狭しと古道具や骨董品が並び、見るだけでも十分楽しめる場所だった。さほど興味を引かれるものはなく、ただぶらぶらと見て回っていたとき、一つの掛け軸が目に留まった。

掛け軸には、古い武家屋敷が描かれていた。屋敷の周りには竹林が広がり、月夜に浮かび上がるその姿は、どこか不気味でありながらも美しいと思えた。しかし、何より私の目を引いたのは、掛け軸の下部にかすかに残る赤い染みだった。それが絵の一部なのか、それともただの経年による汚れなのかは分からなかったが、妙に心惹かれるものを感じた私は、迷うことなくその掛け軸を購入した。

家に帰ると、私は掛け軸を和室に掛け、毎晩のようにそれを眺めていた。特に変わったところはなく、ただ静かな竹林と古い屋敷が描かれているだけだった。だが、数日が過ぎたころから、奇妙な夢を見るようになった。

夢の中で、私は掛け軸の中の屋敷に足を踏み入れていた。暗い廊下を歩いていると、何か重苦しい気配を感じた。辺りを見回しても、誰もいない。ただ、何かが私をじっと見つめているような感覚があり、その視線から逃れることができない。夢の中の私は、その視線に耐えきれず、屋敷の中を走り回っていた。

夢から覚めると、冷や汗でびっしょりと濡れていた。こんな夢を何度も見るのはおかしいと感じながらも、私はそれを特に気に留めることはなかった。しかし、夢は日に日に生々しくなり、やがて現実との境界が曖昧になり始めた。

ある夜、また例の夢を見ていた。今度は屋敷の奥に進むと、ふすまの向こうからかすかに話し声が聞こえてきた。低く押し殺したような声で、何を言っているのかは分からなかったが、それが非常に怨念を含んでいることだけは伝わってきた。私はふすまを開けようとしたが、その瞬間、背後から冷たい手が肩に触れた感触に震え、目を覚ました。

しかし、目覚めた後もその感触は残っていた。私は寝室を飛び出し、掛け軸が掛けられている和室へ向かった。掛け軸の前に立つと、描かれている屋敷が以前よりも暗く、重苦しく見えることに気づいた。そして、その赤い染みがさらに広がり、まるで血が滲み出しているかのように見えた。

次の日、私は掛け軸の出所が気になり、骨董市で出会った店主を訪ねることにした。しかし、その店はもう無くなっており、誰に聞いてもその店を知らないという。掛け軸について何も分からないまま、不安だけが募っていった。

それから数日後、私はまたあの夢を見ることになる。しかし今回は、夢の中で目にしたものが現実に影響を及ぼすようになった。夢の中で私がふすまを開けた瞬間、現実の世界でも何かが動いたような音が和室から響いた。恐る恐る和室に向かうと、掛け軸が壁から外れ、床に落ちていた。掛け軸を拾い上げたその瞬間、背後で何かが動いた気配を感じた。私は振り返ることができず、ただその場に立ち尽くしていた。

翌朝、私はあの掛け軸を捨てることを決心した。しかし、いざ捨てようとしたとき、どうしても手放すことができない強い力に引き留められたかのように、掛け軸を持ち続けたままだった。結局、私は掛け軸を元の場所に戻し、それ以降、何もなかったかのように過ごすことにしたが、心のどこかで恐怖が離れなかった。

最後に見た夢の中で、私は屋敷の奥へと再び足を踏み入れた。今度は逃げることもできず、ただその怨念を受け入れるしかなかった。目を覚ましたとき、掛け軸の赤い染みが一段と濃くなり、まるで新しい血が付着したかのように見えた。

その後、私はその掛け軸を二度と見ようとは思わなかった。掛け軸は今でも和室の壁に掛けられているが、その前を通るたびに視線を感じる。そして夜になると、時折夢の中で再びあの屋敷を訪れる。私がこの掛け軸から完全に解放されることは、もうないのかもしれない。



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