私は中学校の教師をしていた頃、夜遅くまで職員室で仕事をすることが多々あった。特に試験前や行事の準備が重なる時期は、家に帰るのが日付を越えることも珍しくなかった。
その夜も、期末テストの準備で職員室に一人残っていた。校舎の中はすっかり静まり返り、外の街灯の淡い光が窓から差し込むだけだった。時計を見ると、すでに夜の11時を過ぎていた。
「そろそろ帰ろうか…」そう思いながら、書類の片付けをしていると、廊下からかすかに足音が聞こえてきた。
「コツ…コツ…」
その音は一定のリズムで、ゆっくりと廊下を歩くように響いていた。この時間に学校に残っているのは私だけのはずだった。最初は気のせいだと思い、仕事に戻ろうとしたが、足音は次第に近づいてくるように感じた。
「誰か残っているのだろうか…?」
私は不審に思い、職員室のドアを開けて廊下を確認してみた。しかし、そこには誰もいなかった。廊下は薄暗く、遠くの方まで見渡せるが、人影はどこにもない。
「やっぱり気のせいか…」そう思いながらドアを閉め、仕事に戻ろうとした瞬間、再び足音が聞こえてきた。
「コツ…コツ…」
今度は、確かに廊下を誰かが歩いている音だった。私は再びドアを開けて廊下を確認したが、やはり誰もいない。薄暗い廊下には静けさだけが漂っている。
少し不安を感じながらも、仕事を終わらせようとした。しかし、足音は一度止んだかと思うと、今度は職員室の前でぴたりと止まった。
「誰かいるのか…?」
私は勇気を振り絞ってドアの方に向かい、そっとドアを開けた。やはり誰もいないと思い、ふとしたを見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
目の前には、膝から下だけの足があった。まるで透明な体に支えられているかのように、足だけが廊下にぽつんと立っていた。私は驚愕し、言葉を失った。足は無表情なまま、こちらに一瞥もくれず、そのまま廊下の奥へと走り出した。
「ダダダダ…」
足音は一気に速くなり、廊下の奥へと消えていった。私の体はその場に凍りつき、動くことができなかった。廊下の奥には何も見えなくなったが、足音が消えた後も、恐怖で心臓の鼓動が止まらなかった。
しばらくの間、私はその場に立ち尽くしていたが、ようやく動けるようになり、急いで荷物をまとめて職員室を飛び出した。学校の出口まで一気に駆け抜け、外に出た時には汗でびっしょりになっていた。
その夜、私は家に帰ってからも震えが止まらず、眠ることができなかった。翌日、学校で同僚にその話をすると、みんなが驚いた顔をしていたが、誰一人としてそれを笑い飛ばすことはなかった。
「あの廊下は、夜になると不思議なことが起こるって昔から言われているんだよ」と、年配の先生が静かに言った。どうやら、私が見たものは一度だけではなく、過去にも同じような体験をした人がいたらしい。
それ以来、私は夜遅くまで学校に残ることを避けるようになった。あの足音の正体が何だったのか、今でも分からない。だが、あの夜、廊下で見た光景は、私にとって決して忘れることのできない恐怖の体験となった。
学校には、普段は見えない何かが潜んでいるのかもしれない。特に夜になると、その存在が現れることがあるのだろう。私はその事実を、身をもって知ることになったのだった。
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