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深夜に見つけた不思議なパン屋さん: 疲れを癒す魔法のパン 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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田中陽介は、その日も遅くまで残業をして、深夜になってようやく会社を出た。長い一日を終えた彼は、疲れた体を引きずるようにして自宅へと向かっていた。夕飯を食べる時間もなかったため、帰り道でコンビニに寄って何か買おうと考えていたが、歩き続けるうちに、ふと街角で小さなパン屋を見つけた。

「こんな時間にパン屋がやっているなんて…」と、陽介は驚いた。普通、パン屋といえば早朝から昼過ぎ、せいぜい夕方くらいまでの営業が一般的だが、その店は深夜にもかかわらず、温かい光を放ち、開店していた。店先には「夜のパン屋」とだけ書かれたシンプルな看板がかかっており、どこか懐かしい雰囲気が漂っていた。

興味を引かれた陽介は、自然と店の中へ足を踏み入れた。中には、ほんのりとしたパンの香りが漂い、棚には色とりどりのパンが並んでいた。しかし、そのパンはどれも普通のものとは少し違っていた。形や色合いが独特で、どこか夢の中で見たような不思議な印象を与えた。

店内には小柄な老婦人が一人で店番をしており、彼女はにっこりと微笑んで陽介を迎えた。

「いらっしゃいませ。お仕事でお疲れでしょう?ここには、特別なパンがいろいろありますよ」

陽介は棚を見回しながら、どれを買おうか迷った。すると、老婦人がいくつかのパンを勧めてくれた。

「こちらは『夢見るクロワッサン』です。これを食べると、まるで夢の中にいるような心地よい気分になれますよ。そしてこちらは『安らぎのメロンパン』、これを食べると心がほっと安らぐでしょう。最後に、この『力を取り戻すカレーパン』、これを食べれば疲れが吹き飛びますよ。」

陽介はその言葉に惹かれ、勧められたパンを一つずつ手に取った。それぞれのパンは、見た目も香りも魅力的で、彼はすぐにでも食べたくなった。

「では、これをお願いします」と、陽介はパンを購入し、帰宅後に食べることにした。

家に帰ると、陽介はさっそくパンを一つずつ味わった。最初に食べたのは「夢見るクロワッサン」だった。その軽い食感とバターの香りが口の中で広がると、彼はまるでふわふわとした夢の中にいるような心地よさを感じた。次に「安らぎのメロンパン」を食べると、ふわっとした甘さが心を包み込み、日々のストレスが溶けていくようだった。

最後に「力を取り戻すカレーパン」を食べた瞬間、カレーのスパイシーな香りとともに、体中に力がみなぎるのを感じた。疲れが一気に吹き飛び、体が軽くなったような感覚に包まれた。

「こんなに美味しいパンは初めてだ…」と陽介は感嘆した。パンを食べ終わった頃には、彼の体と心は完全に癒されていた。いつもなら疲れでぐったりするはずの深夜だったが、その日は不思議なほど快適な気分で眠りにつくことができた。

翌朝、陽介は目覚めると、あのパン屋が気になり、もう一度訪れてみることにした。しかし、昨夜見たはずの店はどこにもなかった。代わりに、そこには古い看板がかかっているだけで、店は閉店して久しいように見えた。

「昨夜の出来事は夢だったのか…?」と陽介は思ったが、家に帰るとテーブルの上には確かに空になったパンの袋が残っていた。夢ではない。確かにあの不思議なパンを食べたのだ。

その日以降、陽介はあのパン屋を探すことが日課になったが、再び見つけることはできなかった。それでも、あの夜に食べたパンの味と、その後に訪れた安らぎと力強さは、彼の中に深く刻まれ、どんなに疲れても、ふとあのパン屋を思い出すことで元気を取り戻せるようになった。

不思議なパン屋は、彼にとって特別な思い出となり、夜の街角に見え隠れするその店の存在は、今もなお彼の心に温かく残り続けている。



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