松本明は、祖父が亡くなった後に遺された古い家を相続することになった。祖父は昔気質の人で、長年住み慣れた家にこだわり続けていたため、家の中は昭和の雰囲気が色濃く残っていた。明はその家をどうしようか迷っていたが、古い家をリフォームして住むのも悪くないと考え、まずは整理をすることにした。
ある日、明は家の片付けをしている最中に、居間の隅にある古い電話機を見つけた。それは黒いダイヤル式の電話で、もう何年も使われていないように見えた。しかし、どこか懐かしい気持ちを感じた明は、その電話を捨てずに飾りとして残すことにした。
その夜、明は自宅に戻り、いつものように過ごしていた。深夜にベッドに入ってしばらくすると、突然電話のベルが鳴り響いた。驚いて飛び起きた明は、部屋の電話に出ようとしたが、ベルは止まり、電話機の表示を見ると着信はなかった。
「気のせいか…?」と首をかしげながら、再び寝室に戻ろうとした瞬間、再びベルが鳴り響いた。しかし、今度は自宅の電話機からではなく、祖父の家に置いてきたはずの古い電話機のベル音のように思えた。
「まさか…」と明はつぶやき、再び祖父の家へ行くことに決めた。深夜にもかかわらず、何かに引き寄せられるように家に向かった。
祖父の家に到着し、玄関を開けると、確かに電話のベルが鳴り続けていた。明は急いで居間に入り、黒い電話機を手に取った。受話器を上げると、無音が続いた後、かすかに誰かが囁くような声が聞こえてきた。
「…戻ってきてくれて、ありがとう…」
その声は弱々しく、どこか遠くから聞こえてくるようだった。明は誰が話しているのか分からず、驚きと混乱の中で「どなたですか?」と尋ねた。しかし、返答はなく、ただ静寂が続いた。
明は受話器を元に戻し、しばらくその場に立ち尽くしていた。古い電話がどうして鳴り、誰が話していたのか全く分からなかったが、奇妙なことに、その時は怖さは感じなかった。むしろ、祖父が自分に何か伝えたかったのではないかという気がしていた。
翌日、明は再び祖父の家を訪れ、古い電話機をじっくりと調べてみた。電話線はすでに切断されており、通話ができる状態ではなかった。それでもあの夜、確かに電話は鳴り響き、誰かが話していたのだ。
明はその後も何度か祖父の家に通ったが、電話が鳴ることはもうなかった。祖父の家をリフォームし、そこに住み始めた明は、あの古い電話機を玄関に飾ることにした。
その電話はもう二度と鳴ることはなかったが、時折、家の中で風が吹き抜けるような音がすると、明はその音に耳を傾け、祖父の声を思い出していた。
古い家には思い出が染み込んでいる。そして、古い電話機もまた、かつての声をどこかに残していたのかもしれない。そう思うと、あの奇妙な出来事も不思議と温かく感じられた。
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