それは、ある雨の降る夜のことでした。仕事が終わり、私はいつものようにオフィスビルのエレベーターに乗り込みました。ビルは20階建てで、私はその夜、16階から1階に降りるため、1階のボタンを押しました。外は強い雨が降っており、雷が時折鳴り響いていました。
エレベーターは静かに下降を始めました。私は疲れ切っており、エレベーターの壁にもたれかかりながら、ぼんやりと床を見つめていました。天井からの薄暗い照明が、エレベーター内に影を落とし、いつもよりも狭く感じました。
突然、エレベーターがガタッと揺れ、私は一瞬バランスを崩しました。驚きつつも、再び壁にもたれかかり、何気なく目の前の壁を見上げたその時、異変に気づきました。
エレベーターの壁に、何かがぼんやりと映り込んでいたのです。
最初は照明の反射かと思い、目をこすりましたが、それは単なる光の反射ではありませんでした。壁に映し出されているのは、まるで古い映像のようなものでした。映像はモノクロで、どこかノイズがかかったようにチラついていました。
「何だ…これ?」
私は思わずつぶやきました。エレベーターは動き続けているにもかかわらず、その映像はまるで固定されたスクリーンに映し出されているかのように、壁に鮮明に映り続けていました。
映像に映っていたのは、見覚えのない場所でした。狭い部屋の中で、男性が一人、何かを探している様子が映し出されていました。彼は焦った表情で、机や棚をひっくり返し、何かを探し続けています。
「これ…誰だ?」
私はその男性の顔に見覚えがなく、ただその必死な様子に目が釘付けになりました。エレベーターの中にいるのに、私はまるでその部屋の中に入り込んだかのような感覚に陥りました。男性は何かを見つけたようで、机の引き出しから古い手帳を取り出しました。しかし、その瞬間、画面が途切れるようにノイズが走り、映像が消えました。
「今のは…?」
驚きと困惑が入り混じる中、エレベーターはさらに下降を続けました。私は壁から目を離すことができず、次に何が映るのかを恐る恐る見守っていました。
すると、再び壁に映像が映り始めました。今度は違う場所でした。薄暗い通路のような場所で、二人の人影が見えました。一人はさっきの男性、もう一人は女性でした。二人は言い争いをしているようで、女性が何かを強く訴えている様子が映し出されていました。しかし、音声はなく、彼らが何を言っているのかは分かりません。
次の瞬間、男性が何かに激昂したかのように、女性に向かって手を振り上げました。女性は怯えた表情を浮かべ、後ずさりしましたが、壁にぶつかって逃げ場がない様子でした。
その時、映像は突然止まりました。私は心臓が激しく鼓動し、息が詰まるような感覚に襲われました。エレベーターは相変わらず動いていますが、今にも止まってしまうのではないかという恐怖が広がっていきました。
再び映像が動き出しました。今度は画面全体が大きく揺れ、まるで誰かがカメラを持って走っているかのように、映像が乱れました。男性の姿が再び映り、彼は何かから逃げるように必死に走っています。しかし、走っている場所が次第に見覚えのある光景に変わっていきました。
それは、今私が乗っているエレベーターの内部でした。
「まさか…」
私は一瞬、息を呑みました。映像の中で男性が乗り込んだエレベーターは、まさに私が乗っているこのエレベーターだったのです。彼はボタンを押し、エレベーターが動き始めましたが、突然ガタガタと揺れ、私が感じたのと同じように停止しました。
男性は焦りの表情を浮かべ、ドアを叩きましたが、エレベーターは全く動く気配がありませんでした。彼は次第に恐怖に満ちた表情に変わり、何度も周囲を見渡しました。そして、何かに気づいたように、壁を見つめました。
その瞬間、映像は途切れ、エレベーター内は再び静寂に包まれました。私は心臓がバクバクと鳴り響くのを感じ、頭の中が真っ白になりました。
突然、エレベーターが再び動き出しました。私は壁から目を離し、ただ無事に1階に着くことを祈りました。やがてエレベーターは1階に到着し、ドアが静かに開きました。私は震える足で外に出ましたが、頭の中にはあの映像が焼き付いて離れませんでした。
あの男性は一体誰だったのか。そして、あのエレベーターで何が起こったのか。今でもその答えは分かりませんが、二度とあのエレベーターには乗りたくないと強く思いました。
エレベーターの中で見た映像は、ただの幻覚だったのか、それとも過去に本当に起こった出来事だったのか。答えが出ないまま、私は今でも時折あの夜のことを思い出し、背筋が冷たくなるのを感じます。
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