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13階の呼び鈴――誰もいないエレベーターが止まる階 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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私はある大手企業で働いていた頃、社屋の中に奇妙な噂が広まっているのを耳にしました。それは、夜遅くまで会社に残っていると、エレベーターが「13階」に止まるという話でした。

その社屋は20階建てで、実際には13階など存在しません。1階から20階まで順に並んだボタンには、13階だけが欠けていました。誰も13階に行くことはできないはずなのに、なぜかエレベーターは時折、13階に止まると囁かれていました。

ある夜、私は残業で遅くなり、オフィスを後にすることにしました。時計の針はすでに深夜を指していて、フロアには私一人だけが残っていました。仕事を終えた私は、いつも通りエレベーターに向かいました。

エレベーターのドアが静かに開き、私は無意識のうちに背筋がぞくっとするのを感じました。中に入ると、いつもと変わらないエレベーターでしたが、何かが違っているような感覚がありました。

「ただの疲れだろう…」自分にそう言い聞かせながら、私は1階のボタンを押しました。エレベーターは静かにドアを閉じ、ゆっくりと下降し始めました。階数表示が一つずつ下がっていくのを見て、ようやく一息つけると思った瞬間、突然エレベーターが止まりました。

その階数表示には、「13」という数字が点灯していたのです。

「13階なんて…ないはずなのに…」

心臓が激しく脈打ち、私は恐怖で息が詰まりそうになりました。ドアがゆっくりと開いていくのを見て、私は目を見開きました。そこに広がっていたのは、見慣れた廊下とは違う、薄暗い空間でした。

薄汚れた壁、壊れた照明、床には何か不明な液体がこぼれているのが見えました。私は息を飲み、エレベーターから一歩も動けませんでした。足がすくんでしまったのです。廊下の奥からは、かすかな声が聞こえてきました。

「あー、あ、あ、ああああ…」

その声はどこか歪んでいて、まるで複数の声が重なり合っているかのようでした。私は必死に「閉」ボタンを押しましたが、ドアはまるで重くなったかのように、すぐには閉まりませんでした。

「早く、早く閉まってくれ…」

心の中で叫びながらも、ようやくドアがゆっくりと閉まり始めました。ドアが閉まり切る直前、何かがドアの間に入り込むのが見えました。白い手がドアにかかり、何かがエレベーターの中に入ろうとしていました。

その瞬間、ドアが勢いよく閉まり、エレベーターが再び動き出しました。私は息を切らし、背中に冷たい汗が流れるのを感じました。エレベーターは何事もなかったかのように下降を続け、1階に到着しました。

ドアが開くと、見慣れたロビーが目の前に広がっていました。私は急いでエレベーターを飛び出し、会社を後にしました。その夜、家に帰っても、あの「13階」の光景と、廊下の奥から聞こえた声が頭から離れませんでした。

翌日、同僚たちに昨夜の出来事を話しましたが、誰も信じてくれませんでした。むしろ、「13階なんてないじゃないか」と笑われるだけでした。しかし、私は知っていました。あの夜、確かに13階に止まったのです。

それ以来、私は夜遅くまで会社に残ることを避けるようになりました。あのエレベーターが、再び「13階」に止まるのではないかという恐怖が、今でも私の心の中に影を落としています。

あの13階が何なのか、そして廊下の奥から聞こえた声が誰のものだったのか。答えは分かりませんが、一つ確かなことがあります。二度とあのエレベーターには乗りたくないと、心から思っています。



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