あれは、今でも忘れられない恐怖の一夜でした。仕事の疲れからか、その日はいつもより早めにベッドに入りました。深い眠りに落ちると、すぐに奇妙な夢を見始めました。
夢の中、私は見知らぬ場所にいました。薄暗い廊下が続く古い洋館のような建物で、湿った空気が漂い、冷たい風が肌を刺すように感じました。なぜそこにいるのか、どうしてこんな場所にたどり着いたのか分からず、ただ不安が心の中に広がっていきました。
廊下を歩いていると、後ろから足音が聞こえました。振り返ると、そこには誰もいない。足音だけが私を追いかけてくるように感じられ、私は逃げ出しました。廊下の奥に向かって走り続けましたが、どこへ行っても出口が見つかりません。暗闇に包まれた洋館は終わりのない迷路のように思え、息が切れるほどの恐怖が全身を覆いました。
足音は次第に近づき、背後に何かの気配を感じました。振り返りたくても恐怖で振り返ることができず、ただ前に進むしかありませんでした。そして、何かが背後から私に触れた瞬間――目が覚めました。
「はぁ、はぁ…」
心臓がバクバクと鳴り響き、汗が額を流れていました。辺りを見渡すと、私は自分の部屋にいました。布団の中で震えながら、夢だったことを認識し、ほっとしました。
「なんてひどい夢だ…」
夢の中で感じた恐怖は現実のように鮮明で、体全体が緊張したままでした。私はベッドに腰掛け、水を飲んで気持ちを落ち着けようとしました。夢のことを忘れようとして、深呼吸を繰り返しました。
しかし、その時、背中に妙な違和感を感じました。何かがチクチクとした感覚があり、私は首を伸ばして背中を触りました。すると、そこには細い線のような傷がありました。鏡で確認すると、背中には赤い爪痕がついていました。
「え…これ、どうして…？」
背中の爪痕は、まるで誰かに引っ掻かれたかのように鮮明に残っていました。私は混乱し、考えを巡らせました。夢の中で背後から何かに触れられた感覚を思い出し、それが現実にも残っているのだとしたら――。
「そんなはずはない、ただの夢だ…」
そう自分に言い聞かせましたが、爪痕の痛みがじんわりと広がり、夢が現実だったかのような恐怖が再び胸にこみ上げてきました。私はただの寝相の悪さで背中に傷ができたのだと思い込もうとしましたが、あの瞬間の感覚がどうしても頭から離れません。
鏡に映る自分の背中を見つめながら、私は再び悪寒を覚えました。何か得体の知れない存在が、夢の中だけでなく、この現実の世界にも私に触れたのではないかと。布団に戻りたくても、ベッドに横たわることができませんでした。
あの悪夢がただの夢であればどれほど良いか。そう思いながらも、今でも背中に残る爪痕が、あの夜の出来事がただの夢ではなかったのではないかという疑念を消すことができません。現実と夢の境界が曖昧になり、私はその恐怖に取り憑かれるように、毎晩眠ることが怖くなりました。
そして、あの夜以来、毎朝背中を確認する習慣がついてしまいました。今は爪痕は治り、目に見える傷跡は消えましたが、あの夢が現実だったかもしれないという不安は、今でも私の心の中に消えることなく残り続けているのです。
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