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悪夢の証――目覚めた手に握られたもの 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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あれは、いつものように疲れ果てた夜のことでした。仕事のストレスからか、その日は特に体が重く、布団に入るとすぐに眠りに落ちました。眠りについた直後から、奇妙な夢を見始めました。

夢の中で、私は見知らぬ森の中を歩いていました。空はどんよりと曇り、風は冷たく、耳元で不気味なささやき声が響いていました。誰もいないはずの森の中で、どこかから私を呼ぶ声が聞こえてきます。

「こっちへ来て…」

その声に導かれるように、私は歩き続けました。足元には乾いた枝が散乱し、踏みしめるたびにバキバキと嫌な音が響きます。周囲は異様に静まり返っていて、どこか異世界に迷い込んでしまったような感覚がありました。

やがて、森の奥で何かが光っているのを見つけました。私は恐る恐る近づいていきましたが、そこで見つけたのは、一見すると普通の何かの「鍵」でした。古びた金属のような質感で、冷たい光を放っていました。なぜかその鍵が重要なものだと感じ、私はそれを手に取りました。

しかし、鍵を手にした瞬間、周囲の雰囲気が一変しました。さっきまで曇っていた空は急に暗くなり、風が強く吹き始め、周囲の木々がざわざわと音を立て始めました。背後から誰かが追いかけてくるような気配がし、私は恐怖に駆られ、手にした鍵を強く握りしめたまま逃げ出しました。

息が詰まるほどの恐怖が広がり、何とかこの場所から逃げ出したいという一心で走り続けました。しかし、走れば走るほど、どこまでも森が続き、出口は見つかりません。足が重くなり、次第に動かなくなっていく中、背後からの足音が近づいてくる。

「これ以上は逃げられない…!」

そう思った瞬間、誰かに肩を掴まれた感覚がし、私は恐怖の絶頂で目を覚ましました。

「はぁ、はぁ…」

胸が激しく上下し、心臓が鼓動を鳴らしています。自分のベッドに戻ったことに気づき、安堵のため息をつきました。夢だった。悪夢にすぎなかったんだ、と自分に言い聞かせました。全身は汗でびっしょりと濡れ、体の震えが止まりません。

しかし、その時、私はある異変に気づきました。

「…何か…持ってる?」

右手が妙に重く、何かを強く握りしめている感覚がありました。恐る恐る手を開いてみると、そこには夢の中で見たあの「鍵」が、現実の手の中にあったのです。

「嘘だろ…」

一瞬、頭が混乱し、これはまだ夢の中なのかと自分に問いかけました。しかし、手の中の鍵は冷たく、重さもはっきりと感じられました。夢の中で拾ったはずの鍵が、今、現実の世界で私の手にあるのです。

「どうして…」

信じられない思いで鍵を見つめました。古びた金属の質感、錆びついた表面、夢の中で感じた冷たさと全く同じでした。頭の中では「ただの夢だった」と繰り返し言い聞かせようとしましたが、目の前の現実がそれを否定していました。

あの森の中で拾った鍵が、どうしてここにあるのか?鍵の存在が、まるであの夢が現実だったのではないかという恐怖を増幅させていきました。夢の中で感じた背後の気配、肩を掴まれた瞬間の感覚が、鮮明に蘇ってきます。

私は鍵を手に持ったまま、体が固まって動けませんでした。夢と現実の境界が曖昧になり、この鍵が何を意味しているのか分からず、ただただ恐怖で震え続けました。

あれから数日が経ちましたが、あの鍵は未だに私の手元にあります。捨てようとしても、なぜか捨てることができず、引き出しの奥にしまってあります。あの夜の夢が現実だったのか、それとも悪夢の中で何か異常なことが起きたのか、今でもその答えは見つかりません。

ただ一つだけ確かなのは、あの鍵が現実のものとして私の手にあったこと。そして、あの夢が決してただの悪夢ではなかったという感覚が、今でも消えずに私の心の中に残っているのです。



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