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止まらないエレベーター――深夜の終わりなき下降 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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あれは、残業で遅くなった夜のことでした。いつもなら19時ごろにはオフィスを出るのですが、その日はトラブル対応が長引き、ビルを出る頃にはすでに深夜を過ぎていました。ビルの中はすっかり静まり返り、私が最後の退勤者でした。

時計を確認しながら、私はオフィスビルのエレベーターへと向かいました。エレベーターに乗り込むと、静寂に包まれた空間が妙に冷たく感じられましたが、特に気にすることもなく「1階」のボタンを押しました。家に帰って早く休みたいという気持ちでいっぱいでした。

エレベーターはいつものように静かに動き出し、20階から下降を始めました。私は疲れていたので、エレベーターが止まるのを待ちながら壁にもたれかかりました。階数表示が一つずつ減っていきます。19階、18階、17階…。

しかし、ふと違和感を感じました。エレベーターは確かに動いているのに、なぜか思ったよりも長く降り続けている気がしたのです。いつもなら15階くらいまではほぼ一瞬で降りるのですが、その夜はやけに時間がかかっているように思えました。

「ただの気のせいか…」

そう自分に言い聞かせ、再び階数表示を見ました。しかし、そこで驚愕しました。

表示されている階数は、なぜか「10階」で止まっていたのです。

「おかしい…こんなに時間がかかるはずがない…」

動揺しながらも、エレベーターは確かに動いているのを感じました。しかし、表示が「10階」からまったく変わりません。私は焦りを感じ始め、もう一度「1階」のボタンを何度も押しました。けれども、エレベーターは無反応で、階数表示は変わらないままです。

「止まらない…」

冷たい汗が背中を流れ始めました。エレベーターの動きは続いているのに、どこにも到達しない。まるで、どこか別の場所へ連れて行かれるような感覚が広がっていきました。

「もしかして…故障?」

そう思い、非常用インターホンに手を伸ばしました。ボタンを押しましたが、何の応答もありません。エレベーターの中は不気味なほど静かで、ただ機械の動作音だけが響いていました。もう一度ボタンを押しても、やはり何も変わりませんでした。

「これって、どこまで降り続けるんだ…?」

恐怖がじわじわと広がり、呼吸が浅くなっていきました。エレベーターが止まる気配はなく、階数表示は相変わらず「10階」のまま。体感的にはすでに1階を過ぎているはずなのに、エレベーターは無言で進み続けています。

やがて、エレベーターは突然速度を増し、さらに速く降下し始めました。耳が軽くキーンと鳴り、空気が圧縮されていくのを感じました。私は手すりにしがみつき、体を支えましたが、その異様なスピードに恐怖がますます膨らんでいきました。

「何だ…これは…」

床下に何か異常な存在が広がっているかのような錯覚に襲われ、私は息が詰まりそうになりました。エレベーターはどこまで下降するのか見当もつかず、目の前の空間が異常に歪んで見え始めました。まるで現実の世界から切り離され、別の場所へ引き込まれているかのような感覚が襲ってきました。

そして、突然――エレベーターが停止しました。

私は身構えましたが、ドアは開きません。階数表示は「1階」を示していましたが、外に出ることができる気配がありません。呼吸を整え、ドアに耳を近づけましたが、廊下の音や外の音は何も聞こえず、ただ無音の空間が広がっているだけでした。

「ここは…本当に1階なのか?」

私はドアを叩いて助けを呼ぼうとしましたが、やはり応答はありません。冷たい空気がエレベーター内に充満し、私は完全に孤立していることを実感しました。

しかし、数秒後、ゆっくりとドアが開きました。私は一気に緊張が解け、ほっとした気持ちでドアの外へ一歩踏み出しました。

目の前に広がっていたのは、見慣れたビルの1階のロビー。しかし、何かが違いました。異様な静けさと、どこか現実感のない光景が広がっていました。ロビーの照明がやけに暗く、影が深く伸びているように感じました。

私は急いでエレベーターを振り返りましたが、その瞬間、ドアが音もなく閉まり、再び上昇を始めました。

何もなかったかのように、エレベーターは元の階に戻ろうとしていました。しかし、私にはもうエレベーターの中に戻る気力は残っていませんでした。心臓がドキドキと鳴り、全身が冷や汗で濡れていました。

あのエレベーターで何が起こったのか、結局分かりませんでしたが、それ以来、私は深夜にエレベーターを使うことを避けるようになりました。どこか別の場所に連れて行かれそうな、あの「止まらないエレベーター」に再び乗ることはないと誓ったのです。

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