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消えた乗客――動かない二人の異常な存在 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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あれは、何でもないはずの帰り道のことでした。いつも通り、仕事を終えてオフィスビルのエレベーターに乗っただけでした。ビルは20階建て、私は16階にある自分のオフィスから1階へ降りるため、エレベーターのボタンを押しました。

エレベーターに乗ると、すでに3人の乗客がいました。一人はスーツ姿のサラリーマン、一人は若い女性、もう一人は中年の男性。彼らも同じように、家路を急いでいるのだろうと何気なく思いながら、私は彼らの後ろに立ち、「1階」のボタンを押しました。

エレベーターは静かに下降し始め、私たちは狭い空間の中で無言のまま時間を過ごしていました。誰もが疲れているのか、誰一人として話す気配もなく、静かな空間でした。私はただ、早く家に帰って休みたいという気持ちだけを抱えていました。

階数表示が一つずつ下がり、20階、19階、18階と進んでいきます。特に変わったこともなく、いつものエレベーター。私は何も気にせず、ぼんやりと前を見ていました。

しかし、15階を過ぎたあたりで、ふと違和感を感じました。私は何かが変だと気づいたのです。

サラリーマンの姿が、どこにも見当たりませんでした。

「え…?」

たしかに、エレベーターに乗った時には彼がいたはずです。スーツ姿で、無表情で立っていたのを覚えています。でも、今はその姿が消えていました。

私は驚きながらも、冷静にもう一度エレベーター内を見渡しました。ドアは途中で開かなかったし、彼が降りた瞬間を見逃したとも思えません。けれども、サラリーマンはどこにもいない。まるで最初から彼が存在していなかったかのように感じられました。

「え?いつ…?」

頭の中で何度も状況を整理しようとしましたが、どう考えてもおかしい。彼が降りるタイミングがなかったのに、彼だけが消えている。そう思うと、エレベーター内の静けさが異常に思えてきました。

ふと、周りの乗客に目を向けると、若い女性が目に入りました。彼女は乗った時からスマートフォンを見ていましたが、今も変わらず画面をじっと見つめていました。しかし、何かがおかしい。よく観察すると、彼女は全く瞬きをしていないことに気づいたのです。

瞬き一つせず、ただスマホの画面を見つめ続けているその姿が、どこか不気味でした。まるで、人形のように動かず、息をしているのかすら分からないほどの無表情でした。

「この人…おかしい…」

恐怖がじわじわと湧き上がってきました。目の前にいる彼女は生身の人間なのか、それとも何か別の存在なのか。そんな考えが頭をよぎり、私はますます不安になりました。

そして、中年の男性にも目をやりました。彼は階数表示を見つめているだけで、全く動かない。顔の表情も変わらず、ただ一心不乱に階数を見つめ続けているだけ。何度か階数が変わっても、彼は全く反応しませんでした。

「これはおかしい…」

私は体が固まったように動けなくなり、恐怖が全身を覆い尽くしていくのを感じました。エレベーター内の狭い空間が急に息苦しく感じられ、今すぐこの場所から出たい、逃げたいという衝動に駆られました。

次の階でエレベーターが止まるのを心待ちにしながら、私は自分の息遣いを抑えようとしました。そして、7階に差し掛かったところでエレベーターが静かに止まり、ドアが開きました。

私はためらうことなく、その階で降りました。ドアが開いた瞬間、足早にエレベーターを飛び出し、廊下に出ました。冷たい空気が一気に流れ込んできて、少しだけ安堵感が広がりました。

しかし、気になってもう一度振り返り、エレベーターの中を見ました。ドアが閉まる直前、まだ中にいた2人――若い女性と中年の男性――は、相変わらず微動だにしていませんでした。女性はスマホをじっと見つめたまま、瞬きもせず。男性は階数表示を見つめたまま、まるで時間が止まっているかのように動きません。

ドアが完全に閉まり、エレベーターは再び下降を始めました。

私はその場に立ち尽くし、全身が震えるのを感じました。あのエレベーターの中で、何が起こっていたのか。あのサラリーマンは本当に存在していたのか。そして、あの2人は本当に人間だったのか…?

その答えを知ることはできませんでしたが、あの日以来、エレベーターに乗るたびに誰かが消えるのではないかと、ふと不安に駆られることがあります。エレベーターの中にいる乗客たちが、全員本物なのか、それとも気づかないうちに消え去る誰かなのか。そう考えるたびに、背筋が冷たくなるのです。

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