それは、ある平日の夜のことでした。仕事が終わり、私はいつものようにオフィスビルのエレベーターに乗り込みました。夜の9時過ぎ、オフィスには残業している人も数人しかいませんでしたが、エレベーターにはすでに2人の乗客がいました。
一人はスーツ姿の男性、もう一人は派手なファッションの若い女性。私たちは軽く会釈を交わし、特に会話をすることなく、黙ってエレベーターの中で時間が過ぎるのを待っていました。エレベーターは20階から順調に下降を始め、静かに階数表示が下がっていきました。
18階、17階…、私はその階数表示をぼんやりと見つめていました。特に何も考えず、ただ家に帰ることだけを考えていたのです。しかし、ふと奇妙な感覚に襲われました。
「…ん?」
私はもう一度、エレベーターの中を見回しました。さっきまで私を含め3人だったはずが、いつの間にか1人減っていたのです。派手なファッションの若い女性が見当たりませんでした。
「あれ…いつ降りたっけ?」
私は不思議に思いましたが、何かの拍子で彼女が降りた瞬間を見逃していたのかもしれないと自分に言い聞かせました。18階か17階で降りたのだろうと考え、特に気にせずエレベーターはさらに下降を続けました。
しかし、数秒後、再び違和感が襲ってきました。エレベーターのドアは確かにどの階でも開いていないし、誰も降りていないことに気づいたのです。私は明らかに彼女がエレベーター内にいたことを確認していたはずなのに、ドアが開いた記憶が全くありません。
「そんなはずは…」
心の中で疑念が膨らんでいきました。私はスーツ姿の男性に目を向けましたが、彼は何事もなかったかのようにスマートフォンを見つめています。彼に尋ねるべきか迷いましたが、ただの勘違いだと思われるのも嫌で、口を閉じました。
エレベーターはそのまま下降を続け、14階、13階と過ぎていきました。私は気まずい沈黙の中、頭の中で何度もシミュレーションしました。やはり、どの階でもドアは開いていなかった。あの女性が消えた瞬間を目の当たりにしたわけではないのに、まるで彼女が「存在しなかった」かのように感じられる。
「これは、何かおかしい…」
そう思った時、突然エレベーターがガクンと揺れ、動きが止まりました。階数表示は「12階」のまま固まり、ドアは開かないままです。私は息を詰め、心臓が早鐘のように打ち始めました。
「故障か…?」
そう思った瞬間、エレベーター内の照明が一瞬チカチカと点滅し、薄暗い影が映し出されました。私は恐怖で動けなくなり、スーツ姿の男性を見ましたが、彼は何も気にせず、ただじっとスマートフォンを見つめていました。
なぜ、この人はじっとスマートフォンを見つめてられるのだろう、もしかしてこの人は人間では、、、。
目の前にいるはずのこの男性さえも、どこか現実離れしているように感じてしまったのです。
私はその思いを頭から追い払おうとしましたが、心の中に芽生えた不安感は一向に消えませんでした。エレベーターの空間そのものが異様に感じられ、次第に呼吸が乱れ始めました。
すると、エレベーターが再びゆっくりと動き始めました。階数表示は11階、10階と下がっていき、やがて1階に到達しました。ドアが開き、私は急いで外に飛び出しました。ロビーの静けさが、現実に引き戻してくれたかのようでした。
私は振り返り、エレベーターを見ましたが、スーツ姿の男性は降りてきませんでした。私はしばらくエレベーターのドアを見つめ続けましたが、ドアは静かに閉まり、エレベーターは再び上昇していきました。
あの女性とスーツ姿の男性、一体何だったのか。どちらも確かにエレベーターに乗っていたはずなのに、何の前触れもなく消えてしまった。あの日以来、私はエレベーターに乗るたびに、誰かが消えるのではないかという不安に駆られるようになりました。
それが本当にただの勘違いだったのか、それとも何か異常な現象だったのか、今となってはもう確かめようがありません。ただ、あのエレベーターに乗るたびに、ふと背後を振り返ってしまう自分がいるのです。
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