その夜、私はいつも通り眠りについた。特に何か変わったことがあったわけでもない。ただ疲れて、ぐっすり眠りたいと願っただけだった。その夜に夢を見ました。そこは見たこともない街だった。
目の前には活気にあふれた商店街が広がっていた。色とりどりの露店が軒を連ね、通りには大勢の人々が行き交っている。街全体がにぎやかで、楽しげな空気に包まれているのに、私は違和感を覚えた。
街並み自体はどこか見覚えがあるように感じる。それなのに、どこでもない。ヨーロッパのようでそうではないし、アジアの街並みにも似ているが、それでもアジアではない。石畳の広がる通りには、中世ヨーロッパのような建物が立ち並び、その隣には古代アジアを思わせる木造の建築が軒を連ねていた。さらには、まるで未来から飛び出してきたかのようなガラス張りの建物や、どこか懐かしい昭和のレトロな看板まで混ざり合っている。すべてがバラバラでありながら、不思議と調和していた。
「ここは一体…?」
私は混乱しながらも、その街の魅力に引き込まれるように歩き出した。どの店も珍しい品物が並び、香ばしい匂いや美しい音楽が通りを彩っていた。
しばらく歩いていると、ふと一軒の店が目に留まった。ガラス張りの店で、外から中がよく見える。店の中には、美しい瓶がいくつも並んでいた。それは香水店だった。ショーウィンドウに並ぶ瓶の形やデザインはどれも独特で、見るだけでうっとりしてしまいそうなほど繊細で優美だった。
「少し覗いてみようかな…」
私はその店に惹かれるようにドアを押して中に入った。扉が開くと同時に、柔らかな香りがふわっと広がり、心を穏やかにする。店内には、優しい照明が漂い、あらゆる香水の瓶が整然と並べられていた。ガラス瓶は小さなものから大きなものまでさまざまで、どれも美しいデザインだった。ラベルには見たことのない文字が書かれていたが、内容は分からない。
「いらっしゃいませ。」
突然、柔らかい声が背後から聞こえた。振り返ると、そこには華やかな衣装をまとった女性が立っていた。彼女は微笑みを浮かべ、私を歓迎しているようだった。年齢は分からないが、どこか神秘的な雰囲気を纏っていた。
「初めて見るお客様ですね。何か気になる香りがありますか?」
彼女の声は落ち着いていて、どこか安心感を与えるものだった。私は何も言わず、店内を見渡しながら、ある棚に並ぶ小さなガラス瓶を手に取った。その瓶は、ほのかに輝く青色の液体が入っていて、他の香水とは少し違う感じがした。
「それは『夢の香り』と言われています。嗅いだ者は、深い眠りの中で最も美しい夢を見ることができると言われています。もちろん、現実に使ってもほんのりと甘く爽やかな香りが続きます。」
「夢の香り…?」
不思議に思いながら、私はその瓶を手に取り、そっとキャップを開けてみた。すると、甘くて爽やかな香りが鼻をくすぐり、まるで優しい風に包まれたような感覚が広がった。香水というよりも、自然の中にいるような清涼感があり、心が落ち着いていく。
「気に入ったのなら、差し上げます。」
「え?いいんですか?」
彼女は優しく頷き、「あなたにぴったりの香りだと思います」と言いました。私は思わず笑顔を返し、その小さなガラス瓶を手に握りしめました。
その時、突然店の外から声がかかりました。
「お嬢さん、少しお時間を。」
振り返ると、警察官のような制服を着た男が立っていました。彼は厳しい表情で私を見つめていました。
「あなたはこの街の住人ではありませんね。この場所に長居してはいけません。元の世界に戻らなくてはなりません。」
私は驚きとともにその言葉に従わざるを得ない気持ちになり、言葉を飲み込みました。まるで夢から目覚める前のような、何とも言えない不安感が胸に広がりました。
「そういうことなら、これを持って行って。あなたに夢を与えてくれるでしょう。」
香水店の女性は、柔らかい笑顔を浮かべながらもう一度小さなガラス瓶を差し出しました。「さようなら。素敵な夢を。」
私は静かにその瓶を握りしめ、店を後にしました。警察官の男は、私に一言だけ、「二度とこの世界には来てはいけません」と言い、促すように歩き出しました。
次の瞬間、ふっと意識が戻り、私は自分のベッドに横たわっていました。何が起こったのか、頭の中で整理する間もなく、夢だったんだと思い込もうとしましたが、枕元に何かが転がっていました。
それは、夢の中で手渡された小さなガラス瓶でした。現実に存在するはずがないものが、今、手の中にある。
「まさか…」
私はその瓶のキャップを開け、もう一度香りを嗅ぎました。夢の中で嗅いだ、あの甘く爽やかな香りが部屋中に広がり、現実が一瞬で夢に戻ったような感覚に襲われました。
不思議で、そして少し現実離れした香り。それでも、このガラス瓶が私の手の中にあるという事実が、夢のような出来事が現実だったのではないかと私を混乱させ続けました。
あの商店街、そして香水店――夢と現実が曖昧になり、私はその香りに包まれながら、次に何が待っているのかを想像せずにはいられませんでした。
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